子供でいるのは今日でおしまい。
心に決めて迎えた朝。手早く仕度を整え外へ。
ずっとずっと待ってたんだ。
この日が来るのを、ずっと、ずっと。
弾む心をどうにか抑えて、今日も僕は廊下を駆ける。










─さなぎ─










コンコンと叩いた扉の向こうで、珍しく応答の声がした。
入っていい? と声を投げ、けれども返事を待つことはしない。
ひょいと顔を覗かせたら、呆れた風に花白が笑う。
起きたばっかりだったんだろう。寝間着のまま寝台に腰掛けていた。

その傍らに歩み寄り、ちょんと隣に腰を下ろして。
おはよう、と笑って紡いだら、同じ言葉を返してくれた。

「寝癖ついてるよ」

言いながらスイと手を伸ばし、くしゃくしゃの髪に指を通す。
うるさいな、と口を尖らせ、けれど花白は拒まない。
それをいいことに髪を梳いて、一房掬って口づけてみた。

花白は驚いた風に目を丸くして、ほんのりと頬を朱に染める。
恥ずかしい奴、なんて言うけれど、やっぱり跳ね除けたりはしない。





「ね、花白」
「うん?」

改まった風にならないよう、気を付けながら名前を呼ぶ。
自然に、自然に。さりげなく。
けれど小さい頃とは違うんだよって、ちゃんと分かってもらえるように。

「好き、だよ」

いつになく真面目に紡いだ想いは、きちんと言葉になっていたかな。
子供の頃は全力で、考えなしに言えていたのに。
大人になったら痞えてしまった。
ちゃんと伝えたかったのに。

いつの間にか視線は落ちて、真白いシーツを映すばかり。
落ち込むなんてらしくないなと顔を上げようとしたけれど。
頭にふわりと触れた手に、全ての動きが停止した。

首筋を擽る花白の髪と、耳元に寄せられた唇と。
そこからふうっと注がれた、吐息の声に息を呑む。





「知ってる」

慌ててばっと距離を取ったら、視界いっぱいに花白の顔。
悪戯っぽく浮かべた笑みと、照れくさそうに染まった耳と。
くすくすころころ零れる声とに、こっちまで顔が赤くなった。

こんな花白、見たことない。
いつもなら顔を真っ赤にして、馬鹿なこと言うなよって叱るのに。

「でも、まだまだ子供だな」

そう言ってぱたりと後ろに倒れる。
柔らかな枕に顔を埋めて、笑いながらちらと僕を見た。
もう子供じゃない! と抗議をしたら、ああはいはいと往なされる。
子供扱いしないでよ、と言い募ろうとしたけれど。

頬をつつかれ髪を撫ぜられ、慈しむような笑みを向けられて。
はなしろ、と名前を呼ばれたら、それ以上何も言えなくなってしまった。





こんなはずじゃなかったのに。
そう思いながら溜息を吐いたら肩を掴まれぐいと引かれた。
声を上げることも出来ずに花白の隣に転がって。
何するの! という文句の音は、呼吸諸共飲み込んだ。

僕の頭を抱え込むように、ぐるりと回された花白の腕。
苦しくない程度の柔らかな力で、きゅうっと淡く抱き締められる。

「もう少し子供のままでいろよ」

なんて、ぶっきらぼうに言うものだから。
ああ、いつもの花白だ、って。なんだか安心してしまって。
ちょっぴり複雑だったけど、いいよ、と思わず頷いていた。










リクエスト内容(意訳)
「こはな16歳×花白24歳」

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