ぽかぽかとした陽射しの差し込む温かな窓辺をぼんやり見遣る。
零れる木漏れ日、梢の囁き。軽やかな羽音が近付いて。
ぱち、と瞬く両の目に小さな小さな影ひとつ。
鼓膜を擽る囀りに、ふふ、と吐息の笑みを漏らした。










─窓辺に佇む影─










朝を迎えて目覚めたはずなのに、温かな光が眠気を誘う。
欠伸を小さく噛み殺し、涙の浮く目を再び窓へ。
ことりと小首を傾げる姿はすっかりこの目に馴染んだもので。
驚かさないよう息を潜めて、組んだ腕の上に顔を乗せた。

コツコツと近付く足音ひとつ。
扉の方へと意識を向けて、鏡板を叩く音を聞いた。
目を向けなくても玄冬だと分かる。
同時に体の奥から溢れる温かな思いに笑みが零れた。

開かれる扉、室内に足音。ぴたりと身動きを止める影。
玄冬の姿をその目に捉えて、小さく首を傾げてみせる。





「花白、そろそろ昼に、」

玄冬がそう言った瞬間、ぱっと翼が広がって。
あ、と僕が零すより先に、小さな影は背を向けた。
軽やかに羽ばたく音だけ残して、高く遠くへ飛んでいく。

行っちゃった。
そう口にしなくても伝わったのか、悪い、と玄冬の声がする。
見上げた彼の表情は、バツの悪そうな困った顔で。
気にしてないよと首を振れば、すまなそうに「そうか」と。

「また来ていたんだな」
「うん。ここのところ毎日」

小鳥のいない窓辺を見遣り、飛び去った姿を探すけど。
木陰にじっと隠れているのか、それとも遠くへ行ってしまったのか。
どれだけこの目を凝らしても愛らしい影は見当たらない。





ぼんやりしてる僕の頭を大きな手のひらがくしゃりと撫ぜた。
吃驚して、目を見開いて、ひゃあ、と頓狂な声が出る。
そんな様子が可笑しかったのか、頭の上から笑い声。

むっと頬を膨らせて、睨むみたいに彼を見上げる。
しっとりとした藍色の目が優しく優しく細められた。

「ほら、昼にするぞ」
「あ、うん」

差し伸べられた手を取って、カタンと椅子から身を離す。
今日のご飯は何だろう、なんて。そう思ったらお腹が鳴った。

「……食べたら木の実でも蒔いてみるか」
「え?」
「また鳥が来るかもしれないだろう?」

冬は餌が乏しいからな、と。
そう言う玄冬の表情は、柔らかくて、優しくて。
真っ直ぐ見るには気恥ずかしくて、俯き加減で頷いた。





玄冬の手料理に舌鼓を打ち、ふと顔を上げた視線の先。
薄っすら曇った硝子の向こうに、ぼんやりと浮かぶ見慣れた影。
潜めた声で彼を呼び、人差指を唇に。

見て、と示した窓の外、ちょこちょこと跳ねる小さな姿。
ぱちりと瞬く藍色の目が、すっと優しげに細められる。
それから二人で顔を見合わせ、声を潜めて笑みを零した。










リクエスト内容(意訳)
「花に捧ぐ後の幸せなお話」

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