触れられることが嬉しくて、伸ばす腕を止められない。
夜空を紡いだきれいな髪に指を絡ませそっと梳く。
しっとり輝く藍色の目にも触れてみたいと思ったけれど。
さすがにそれは痛いだろうから、目元をなぞるだけにした。










―接触―










仄かに色付く眦の皮膚へ、掠めるように指を這わせる。
吐息の声で玄冬は笑い、くすぐったそうに目を細めた。
目元に触れる僕の手指をやんわりと包む彼の手のひら。
重ねた手と手、絡む指。ぱたりとシーツに落とされる。

じ、と互いに見詰め合い、どちらからとなく口吻けた。
掠めるものから貪るそれへ、徐々に徐々に深くなる。
歯列をなぞり絡み合う舌と、交じり混ざる互いの呼気。
鼻から抜ける自分の声を抑えることすら忘れてしまった。





息苦しさに身じろげば、玄冬は緩やかに身を離す。
ついと糸引く唇を追うともなしに目で追った。
濡れた口元を拭ってくれる玄冬の指がくすぐったい。
顔を覗かせた悪戯心に唆されるまま口に含んだ。

驚いたのかひくりと震え、息を飲むのがはっきり分かる。
それがなんだか愉しくて、そろそろと舌を這わせてみた。
咥え込んだ指の先、肉と爪との境目をなぞるみたいに行ったり来たり。
人差し指から中指まで、軽く噛んでみたりして。

「……花白、」
「ん、」

緩く指を曲げられて、息苦しさから小さく呻いた。
は、と息継ぐその隙に、口内の指が引き抜かれる。
唾液にまみれた玄冬の指が夜目にもぬらりと光って見えた。





その手が腰へと伸ばされて、躊躇うみたいに動きを止める。
視線で問われ頷き返すと目尻に口吻けを落とされた。
湿った感触、圧迫感。引きつる身体と漏れる声。
浅く深く行き来する指に意識も呼吸も掻き乱された。

シーツに縋る手をやんわり握られ、引き剥がされて少し戸惑う。
背に回すように促され、いいのと掠れた声を投げた。
返事の代わりに落ちた口吻けがくすぐったくて身を捩る。
玄冬の背中に回した手。感じる体温が嬉しくて。

引き抜かれる指、触れる熱。意図せず息を呑み込んだ。
いつまで経っても慣れなくて、心配ばかりさせてしまう。
大丈夫かと案じる声にも頷き返すのが精一杯。





縋り付く手に力を込めて、上目に玄冬をじっと見た。
首を伸ばすようにして、彼の唇に口吻ける。
ぱちりと瞬く藍色の目が大きく丸く瞠られて。
大丈夫だからと声を紡げば困ったみたいな笑みが咲いた。

ぐ、と下肢に押し入る熱に喉が引き攣り涙が零れる。
痛みはなかったと思うけど、涙と声とが止められなくて。
ただただ熱くて苦しくて、玄冬の背中に縋り付いた。

気遣うように名を呼ぶ声と、零れる涙を拭う指。
呼吸が落ち着くまで待ってくれる、その優しさが嬉しくて。





許されるはずのないことだった。
僕が玄冬に触れることも、その逆もまた、同じように。
けれど、今は違うから。
僕が残した爪痕だって、時が経てば癒えるから。

深く息を吐き出して、縋り付く手に力を込めた。
髪を梳く手が優しくて、ほんの少しだけくすぐったい。

「ね、玄冬」
「うん?」

涙交じりの震える声で、情けないくらいに掠れた音で。
溢れる想いを言葉に乗せて、しあわせだよ、と囁いた。










リクエスト内容(意訳)
「甘くて幸せなお話」

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