寒い寒いと思っていたら垂れ込めた雲の隙からちらり。
上向けた手のひらに受け止めた白。
束の間の冷たさと僅かな水と。

寒いはずだと苦笑して、濡れた手のひらをそっと握る。
みるみる数を増やした白が一陣の風に弄られ踊った。










─静寂の夢、現の夜─










どこもかしこも白く白く、凍える色に染めてゆく。
冬色を纏う庭に下りると吐き出した息まで白かった。
ぼんやりと遠く霧霞む記憶。かつての居場所と重なる視界。

庭木の伸びに差異こそあれど、ここからの景色に違いはなくて。
幼い頃の思い出が、次から次に舞い戻る。

「……銀閃、」

遠い遠い幼馴染の、久しく呼ばずにいた名前。
紡いできゅうと唇を結び、滲み始めた視界を塞いだ。

ツンと鼻が痛むのは、急な寒さに晒されたから。
脈と呼吸が乱れているのは、身体が寒さに慣れるため。
そう自らに言い聞かせ、震える息を吐き出した。

ほんの束の間漂った呼気は、吹き抜ける風に攫われる。
白く儚い雪を携え、くるくると徒に踊りながら。





「何をしている、風邪を引くぞ」

そう言って上着を肩に掛け、呆れたように溜息ひとつ。
凍えて悴む手指を取って、そっと握った大きな手のひら。
軍人らしい硬い皮膚、けれど手付きは柔らかで。

こうして庭に突っ立っていたら真っ先に俺を見付けてくれた。
叱られることも多かったけど、それが嬉しくて、嬉しくて。

「……あいたい、な……」

瞼を下ろせば浮かぶ姿が、いつしか薄れてしまいそうで。
忘れるはずのない声も、聞かなくなってどれだけ経つだろう。

もう一度会いたい、もう一度だけ。
一目見て、声を聞いて、忘れないよう刻みたかった。
この目に耳に、魂に。強く深く消えないように。

言葉を交わせなくてもいい。
もう一度だけ、会えるなら。





会いたい、会いたい、会えない、会いたい。
募る想いは雲に乗せ、舞い落ちる白にそっと託した。

あちらにだって雪は降るから廻り廻って届くかもしれない。
冬空を舞う真白い花を見、くるり背を向け歩き出す。
吐き出した息を指先に、ここにない温もりを想いながら。





リクエスト内容(意訳)
「切ない隊救。『RAKA』救番目の曲『うたかたの花』イメージ」

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