動き辛い正装を脱ぐこともせず、柔らかな寝台に身を投げ出した。
ふかふかの枕に顔を埋め、息を大きく吸って吐く。
後を追って来た幼馴染の抑えもしない溜息が遠い。
パタンと閉じる扉の音に、ようやく顔だけそちらへ向けた。
─労いの手に口吻けを─
始終にこにこと笑っていたからか、頬の肉が強張っている。
上辺だけの表情とは言え疲れないわけではないらしい。
ころりと天井を仰ぎ見て、左腕を目元に押し付けた。
「……疲れた」
「そうだな」
苦笑の色の滲む声、ブーツの止め具に掛かる指。
そういえば履いたままだったっけと思った頃には脱がされていた。
ありがとうを言うより早く、今度は上着に手が伸びる。
「自分で出来るよ」
「そうか?」
「うん」
だから起こして、と強請ったら、腕を取られて軽く引かれた。
起き上がった勢いもそのままに、カクンと顔を俯ける。
大丈夫かと問いを投げられ、のろのろと首を縦に振った。
「なんで式典ってあんなに長いの」
「さあな」
「いくら何でも長過ぎるよ。以下同文で済ませばいいのに」
似たようなことを何度も何度も聞かされる身にもなって欲しい。
その間ずっと黙って笑って、居眠りしなかったのが奇跡みたいだ。
そう漏らしたら笑われた。
鼻から抜ける吐息の声で、ふ、と小さく控え目に。
銀閃も一緒にいたはずなのに疲れた様子は微塵もない。
見せていないだけかもしれないけれど、なんだか少し悔しかった。
のろのろと釦を外そうとして、けれど相手の方が早い。
ひとつまたひとつと寛げられてしまい、むうと頬を膨らませた。
「ひとりで出来るって言ったじゃない」
「いつまでもぐずぐずしているからだ。皺になるだろう。貸せ」
もたつく間に上着を取られ、慣れた手付きで畳まれてしまう。
おかあさんみたいだ。なんて思った。
母親がどんなものなのか、俺は全然知らないけれど。
きっとこんな風に世話を焼いて、いっぱい愛してくれるんだろうな。
「……月白?」
疲れた腕をついと伸ばして、軽く引いた彼の袖。
訝しむように名を呼ばれ、ふにゃりと笑顔を浮かべてみせる。
「ありがと」
「……ああ、」
仕方のない奴、とでも言いたげな顔。
ほんの少しだけ細められた目。
僅かに笑みを刻んだ唇が、どうしたんだと言葉を紡ぐ。
「今日は随分と甘えただな」
「……疲れてるからね」
「そうか」
彼の袖から手を離し、その襟元の留め具へ伸ばす。
衣擦れを残して落ちた上着を相手は拾おうとはしない。
代わりに俺の手を取って、気障な仕草で口吻けを落とす。
その手を相手の首へ回して、力任せに引き倒した。
驚きに瞠られた蒼い目に、してやったりと浮かべた笑み。
けれど口端に唇が触れて、そんな余裕は消し飛んでしまった。
リクエスト内容(意訳)
「従者隊長×救 甘」
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