人目を避けて城を抜け出す幼馴染を何度も見た。
どこへ行くのかは知らないが、どことなく楽しそうな顔をして。
好きな女でも出来たのだろうと、その時はそう思っていた。
─春拒む哀切─
春の近付く晴れた日のこと。
回廊の先にぼんやりと立つ幼馴染の姿を捉えた。
欄干に凭れ、物憂げな顔で、中庭の奥へと視線を投げて。
さあ、と吹く風に髪が攫われ、紅い眸が隠される。
それを払うこともせず、ただただ遠くを眺めるばかり。
カツンと響いた足音に、ふとその緋色がこちらを向いた。
あれ、と零れた掠れた声と、へらり歪んだ虚ろな笑顔。
痛々しさすら覚えるような、胸の詰まる表情だった。
「今日は出掛けないのか」
「……ん、」
歩み寄り、投げた問い。
緩慢に頷き目を逸らし、それきり口を開かない。
落ち込んでいるらしかった。
「お花とか、お菓子とか、すっごく喜んでくれる子でさ、」
「会いに行っていた相手のことか」
「うん」
ありふれたものでも嬉しそうな顔をして。
いつもいつも笑顔で迎えてくれて。
あったくて、やさしくて、すごくすごく可愛くてね。
ぽつりぽつりと独り言のように幾つもの言葉が零される。
愛しげに、哀しげに、ほろほろと落ちる花にも似て。
「会いに行かないのか?」
「……もう会えないから」
だから行かない、と。
そう呟いて、薄く薄く笑う。
泣き出したいのを堪えるように、震える唇を引き結んで。
ふられたのか、とは訊けなかった。
きっともっと遠いのだろう。
細められた緋色には、隠し切れない悲しみが滲んでいた。
もしかしたら、死んだのだろうか。
幼馴染の想い人は。
何と言葉を掛けたら良いのか考えあぐねて口を閉じる。
ゆるゆると温む春風ですら、哀しみを拭ってはくれなかった。
リクエスト内容(意訳)
「救こく←隊 シリアス」
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