顰めっ面して向き合ってるのは山と積まれた書類たち。
せっかく俺が来てるっていうのに、ちっとも構ってくれなくて。
暇潰しにも飽いてしまって、腹這いの長椅子から転げ落ちてみた。
─構われたがりの即興曲─
何の反応もないというのは結構悲しいものらしい。
べちゃりと床に転がったまま、恨みがましい視線を投げる。
もしかして気付いていないんだろうか。
そんなことを思いもして。
「……つまんない」
「そうは見えなかったがな」
「って、気付いてたんなら何か言ってよ! 虚しいじゃん」
「馬鹿か、おまえは」
さっくり刺さった一言に、柄にもなく一瞬落ち込んだ。
ちらとも視線を寄越さぬままで、相手は書類と睨めっこ。
眉間に寄った深い皺。顔立ちは良いのに、なんて勿体ない。
もそもそと床から起き上がり、ぱた、と服の埃を払う。
再び長椅子に腰を下ろして、じっと幼馴染を見た。
書類に記された字面を追う目が右へ左へと忙しない。
一枚また一枚と捌く手指は華奢に見える癖それなりに硬くて。
背にした窓から差し込む光に銀色の髪がきらきらと透ける。
伏せがちな目は空の色、きれいに晴れた春の色だ。
こっち見てよ、なんて思ったけれど、視線は書類が独り占め。
トン、と処理済の判を捺し、新たな一枚を手に取った。
「ねえ、」
「なんだ」
「ねえってば」
「だからなんだ」
こっち向いて、なんて言わない。
言ったら負けてしまうみたいで、そんなのなんだか癪じゃないか。
つまらない意地を勝手に張って、視線は絶対に外さない。
ねえ、と再度繰り返したら、相手は呆れた顔をした。
手にした書類を机へ投げ出し、溜息ひとつで席を立つ。
コツ、コツ、と近付く足音。徐々に上向く両の視線。
音もなく顔に落とされた影が、視界を黒く埋め尽くした。
「……仕事、いいの?」
「喧しい。休憩だ」
身を屈めての軽い口吻け。前髪を掻き上げ額にひとつ。
頬へと滑った長い指がくすぐったくて小さく笑った。
リクエスト内容(意訳)
「甘々」
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