薄暗い部屋、冷たいシーツ。
寝転んだまま腕を伸ばして、ねえ、と甘く投げた声。
相手の眉間に寄せられた皺には気付かぬふりを通し続けた。
─一夜の花─
伸ばした腕に手のひらが触れる。
つつと撫ぜる感触に、くすくすと喉を震わせた。
持ち上げた腕は首へと回し、抱え込むように強く、強く。
首の付根へ落ちた口吻け、軽く吸われて息を呑む。
びくりと跳ねる肩を抱かれて、押し退けようとした手を取られた。
かち合う視線、滲む熱。
薄く開いた唇からは浅い呼吸が零れるばかり。
「ねえ、ぎんせ、っ」
名を呼び掛けて、塞がれる。
触れるだけの軽いものではなく、喰らい尽くそうとするかのように。
呼気も言葉も満足に継げず、息苦しさに視界が滲んだ。
伸ばした腕は拒まれない。名を呼べば必ず応えてくれる。
甘やかされていると知りながら、縋って、甘えて、離せない。
離れることなんて、考えたくなかった。
「月白、」
「……っ、は……」
熱の篭った低い声。耳朶に直接注がれる音。
くすぐったさとは別の何かがぞわりと背筋を駆け抜けた。
硬い銀糸を指に絡めて、押し返そうとしたけれど。
その手も取られ、指を組まれ、シーツの波へと縫い止められる。
柔く撫ぜる手付きが苦しい。
声を殺して震えるばかりの自分が酷く情けない。
仕掛けるのはいつも俺の方で、翻弄されるのもまた同じ。
「っ銀閃、ねぇ、」
「……なんだ」
幾度目かの呼び掛けにようやく手を止め、彼は蒼い目を向けた。
それからすぐにバツの悪そうな顔をして、俺の頬に手を添える。
親指の腹で肌を撫ぜられ、ようやく流れる涙に気付いた。
「ねえ、俺のこと、好き?」
投げた問いに目を瞠る、呆けたようなその表情。
普段見ることのない顔に、くすりと小さな笑みを零した。
それが気に触ったのだろうか。
頬に幾許かの朱を走らせて、子供っぽく拗ねた顔をする。
「そういうおまえはどうなんだ」
「え。っ、あ……!」
仕返しだと言わんばかりに紡がれた言葉。
理解し返すより先に、意地悪い手が脇腹を撫ぜた。
ああ、わかっているくせに……!
そう思っても言葉に出来ず、代わりに跳ねる呼気と四肢。
押し殺した声は切れ切れに、意味を持たない音と化す。
肌蹴た胸元に咲いた花と、弾ける意識と高い熱。
好きだよ、なんて言わなくたって、ちゃんとわかっているくせに。
どっちもどっちで意地を張って、口にしなくなったその言葉。
言った方が負けだとばかりに、唇を閉じて呑み込む想い。
代わりに互いの名を呼んで、隙間のないよう身を寄せ合った。
いつ終わるとも知れない明日を未来を、拒むかのように目を閉じる。
見えないいつかを憂うより、今この一夜が大切だった。
あとどれだけの夜を生きられるのか、そんなこと自分にも分からない。
そんな思いを知ってか知らずか、彼はいつも応えてくれる。
縋るように伸ばした腕は、今宵もまた受け入れられた。
リクエスト内容(意訳)
「誘い受け。シリアス」
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