よほど気に入っているのだろう。
膝に抱えた子供の肩に顎を乗せて微笑っている。
子供もそれを咎めはせずに、時折視線を合わせるようだ。

和やかな空気、穏やかな時間。幸せそうに寄り添う影。
離れた場所から目にした景色は胸に小さな穴を穿った。










―追い打つ談笑―










飼い主に甘える猫のようだと幼馴染を見て思う。
柔らかな髪に鼻先を埋めたり、頬を擦り寄せたりもして。
度を超すと押し退ける小さな手に、拒絶の意がないことは明らかだった。

嫌だった? と問う声に、ふるりと横に首を振る。
すると彼は微笑んで、小さな体を抱き締めるのだ。
嬉しそうに、幸せそうに。溢れんばかりの愛情を込めて。

柔らかく笑むその表情は、見たことのないものだった。
それを目にして気付いた想いは自覚した途端に砕けてしまう。
傍近く在るのがあたりまえだった。離れて初めて気が付いた。
手を伸ばそうにも時既に遅く、この両腕は届かない。





「おまえは、その子供を選んだんだな」

楽しげな談笑を背中で聞きつつ気配を殺して踵を返す。
自分のあるべき場所ではないと、誰に言われるでもなく知ったから。

気付かなければ、自覚さえしなければ、こんな思いをせずに済んだのか。
こんな世界に迷い込まなければ、目の当たりにすることもなかったのか。
過ぎたことばかりが脳裏を巡る。
探せど探せど出口はなく、堂々巡りの繰り返し。

不思議と心は凪いでいた。
ただ一握りの寂しさと、塞がらぬであろう穴だけ残して。

あんな風に微笑むのなら、俺はそれを見守ろう。
隣に立つことが叶わなくとも、今度こそ失われぬように。





遠く離れた生まれ故郷では、いつも苦しげに笑っていた。
困ったように眉を下げ、貼り付けたようなその表情。
先程目にした微笑みとは違う、痛々しいとすら言えるもので。

「おまえが笑っていられるのなら、」

それでも、俺は構わないと。
続けるはずの言葉を呑んで、自嘲の形に口元を歪めた。
遠く微かな話し声。時折混じる密やかな笑み。
あたたかく柔らかな陽光を避けて、回廊の奥へと歩みを進めた。

幸せそうな彼らの声から、逃れるように、早足で。










リクエスト内容(意訳)
「未来隊長が打鶏肉に来た時、こく救が既にくっ付いてしまっていた」

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