戦地から帰った幼馴染は寝台の上に転がっていた。
生乾きの傷が発する臭いと消毒液の鼻を突く臭気。
痛みに呻く声を聞き、踏み出しかけた足が止まる。
会いたい、けれど、会いたくない。
そんな矛盾を抱きながら、ぎゅっと拳を握り締めた。
―正しい主張―
足音を殺して扉を潜り、音をたてないよう閉じる。
寝台の上で身じろぐ気配と薄く開かれた蒼色の目と。
緩やかに瞬く相手を見て、膝から力が抜けそうになった。
視線がカチリとぶつかった瞬間、彼は苦く微笑んで。
ただ、それだけの仕草なのに、息が継げなくなってしまった。
衣服を剥がれた上半身、黒ずむ赤の滲んだ包帯。
寝台の脇に膝をつき、青褪めた顔を覗き込む。
ねえ、と投げた掠れ声。シーツを握る手が白い。
「ねえ、死ぬの?」
笑おうとして、笑い損ねて、ひくりと口元が引き攣った。
ゆるり瞬く蒼色を見て、知らず知らず呼吸が止まる。
もう開かないんじゃないかって、そんなことばかりが頭の中に。
ねえ、目を開けて、応えてよ。
想いはぐるぐる渦巻くばかり。喉を塞いで吐き出せない。
震える瞼の下から覗く蒼い眸が俺を見た。
「死なない」
告げる声音は低く掠れて、けれど鼓膜を震わせる。
ぼろり零れた涙の雫を冷たい指がぎこちなく拭った。
「おまえが死ぬまで、絶対に死なない」
安心しろと言うかのように、ふわりと彼は微笑んで。
けれど首を横に振る。
頬に触れていた指が、落ちた。
「……やだよ」
「何、」
「俺が死んでも、死なないでよ」
誰が俺のお墓を守るの。誰が花を供えてくれるの。
おまえ以外の人なんて要らない。おまえじゃなきゃ、いやだよ。
子供が駄々を捏ねるみたいに、嫌だ嫌だと繰り返す。
困ったように眉を下げ、幼馴染が俺を呼んだ。
シーツを強く握る手に、冷たい手のひらが重ねられる。
いつもと違う低い体温がどうしようもなく恐ろしかった。
「……俺は墓守か?」
苦笑する声音に「そうだよ」と答え、ひやりと冷たい手指を握る。
この手に宿った温もりが、少しでも彼に伝わるように。
早く傷が癒えるようにと、信じてもいない神に祈った。
後を追わせてもくれないんだな。
そう呟かれた声に震える。
無理矢理笑みを繕い浮かべて、あたりまえでしょ、と突っ撥ねた。
手の中にある力ない指が宥めるように肌を撫ぜる。
大丈夫だと言われてるみたいで、零れる涙が止まらなかった。
リクエスト内容(意訳)
「隊長負傷ネタ シリアス」
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