雪解けの水は川へと注ぎ、日に日に風は温まって。
綻ぶ蕾は見る間に開き、今やはらはら花吹雪。
咲き誇る桜と張り合うように街には活気が満ちていた。
家々の軒に吊られた灯りには色とりどりの薄紙細工。
日暮れともなれば仄かな光に淡い色が浮き上がる。
露店の建ち並ぶ通りを歩む一際目を引く鴇色の髪。
わっと広がる歓声の中へと春の申し子は降り立った。
―散華―
幼馴染と肩を並べて活気付く人々の合間を縫う。
擦れ違う度に掛けられる言葉はどれも歓喜に満ちていた。
ひらひらと手を振り返すだけで、誰もが笑顔の花を咲かせる。
待ち詫びた春、花祭り。風が吹くたび舞い散る桜。
街も人々も着飾って、誰も彼もが幸せそうに。
高く幼い呼び声を受け、二人はその場に足を止めた。
手に手に花を携えて、ぱたぱたと子供らが駆けてくる。
仄かに上気し染まった頬と、きらきら輝く大きな目。
年相応のあどけない笑顔に、はにかむ色が見え隠れ。
「世界を救って下さってありがとうございます」
「お花をどうぞ、救世主さま」
差し出された花を受け取る手つきは、これ以上なく優しげだった。
胸にを彩る花飾りから一輪引き抜き子供の髪へ。
お礼だよ、と囁く声には弾けるような笑顔が返る。
来た時と同じように駆けてゆく背中を緋色の眸が見送った。
優しい優しい笑顔の下に一抹の哀しみを滲ませて。
一度両の瞼を伏せ、ふ、と微かな息を吐く。
その目を再び開けた時、紅い視線に笑みの色。
「いっぱい貰っちゃったね」
「、ああ」
「……どうかした?」
僅かに遅れた相槌に、何かしら違和感を覚えたらしい。
ことんと小さく首を傾げて不思議そうな目で俺を見た。
その視線から逃れるように首を緩く横へ振る。
花一輪を胸から引き抜き、鴇色の髪にそっと挿した。
丸くなる目に笑いかけ、行くぞと手を取り軽く引く。
救世主様と呼ばれる度に、笑顔と共に手を振った。
腕いっぱいの花を抱えて彼は何を思うのだろう。
笑みに歪めた緋色の眸に映る世界を俺は知らない。
リクエスト内容(意訳)
「花祭りの街で複雑な思いをする救」
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