カラコロと下駄を鳴らしながら夕闇の迫る街を急いだ。
脚に絡まる長い裾が鬱陶しくて堪らない。
歩きやすいよう捌いたはずなのに、いつの間にか纏わりついて。
仕方がないかと溜息を吐き、遠く佇む幼馴染に気が付いた。
あと少しだと汗を拭って、真夏の夜をひた走る。
―生成に緋蝶―
下駄の音に振り向いた相手は驚きの表情を色濃く浮かべた。
丸く大きくみはられた目が食い入るように俺を見る。
頭のてっぺんから爪先まで、一度ならず二度三度。
ぱちりと蒼が瞬いたかと思うと、それはそれは盛大な溜息が。
「ごめん、待った?」
言いながら、相手の浴衣の袖を引く。
組まれた腕が小さく跳ねて、揺れる視線が俺を捉えた。
物言いたげな顔をしながら言葉を選び思案する。
「ああ、いや……月白、」
「んー?」
なあに? と小首を傾げてみせると、はあ、と再び溜息を吐く。
横目でちらりと俺を見ながら、低く低く声を紡いだ。
「……なんで女物なんだ……」
「普通の浴衣じゃつまんないかと思って」
笑みを浮かべてそう言えば、そこまでする奴があるかと返される。
そこまでするのが俺でしょう? なんて言ったら呆れられた。
カランと小さく下駄を鳴らして幼馴染を上目に見遣る。
「ね、似合う?」
浴衣の袖をちょいとつまんで、その場でくるりと一回転。
ひらりふわりと袂が揺れて、根付けの鈴がチリンと鳴いた。
また溜息だろうと思っていたのに、相手の表情が柔らかい。
ふ、と微かな笑みを零して銀閃は低く言葉を紡いだ。
「ああ。良く似合ってる」
目が離せなくなるくらいにな。
続けられたその一言を聞き、思考はぴたりと停止して。
再び動き始めるまでに、頬に熱が集まった。
何か言い返さなくては、と開いた口から声は出なくて。
一人で慌てふためく間に、相手が腕を差し出してきた。
「ほら、行くぞ」
「……うん」
その手を取って、きゅっと握る。
顔はまだまだ上げられないけど、手を引いてくれるから大丈夫だろう。
カラコロと下駄を鳴らす先、遠くに祭りの喧騒を聞いた。
リクエスト内容(意訳)
「お茶目で女物の浴衣を着てきた月白」
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