真っ先に我が目を疑って、次いで零れた溜息ひとつ。
さらりと流れた銀糸の髪と、菫水晶の色をした眸。
不健康なまでに白い肌と額に咲いた朱赤の六花。
どれもが主の特徴を示し、違えるはずもないのだけれど。

どうしたものかと思案して、不意の殺気に呼吸が止まる。
ぎぎっと顔をそちらへ向けると爛々と輝く翡翠の双眸。
ゆらり揺らめく金糸の髪は、まるで神話を覗き見たかのようだった。










─比翼連理に抱かれて─










顎のラインで切り揃えられた子供特有の柔らかな髪。
菫水晶の大きな目は、どこか眠そうに瞬いている。
小さな手のひらをしげしげと眺め、フン、と子供は鼻を鳴らした。

「ふべんなものだな」
「……でしょうね」

舌っ足らずに呟かれ、はは、と乾いた笑いを返す。
小さくなったのは外見だけで、中身は変わらぬままらしい。
頬に出来た切り傷が、表情を変える度にちりりと痛んだ。

あのたっぷりとした袖の下に、どれだけの飛び道具が仕込まれているのだろう。
考えるだけで寒気がする。

傷を作った張本人はしあわせそうに微笑んでいた。
小さくなった主を膝に抱き、はにかむように頬を染めて。
カップへ伸ばされた短い腕を白梟がやんわりと制す。
代わりにカップを取り上げて、どうぞ、と差し出しふわりと微笑った。

カップを包む小さな両手、息を吹き掛け冷ます様。
ちびちびと紅茶を啜る姿は、見た目相応に幼く映った。





「それで、どうなさるつもりですか」
「……うん? 私かい?」
「あたりまえでしょう!」

鋭い視線、咎める声音。
先程までの微笑みはどこへやら、きゅっと眦を吊り上げて。
せっかくの美人が台無しだよと囁けばまた睨まれる。

「主がこのような姿になってしまわれた今、我々が対処するより他にないのですよ?」

まさか何も考えていなかったのですか?
ああ、まったく、嘆かわしい。

つらつらと辛辣な言葉を投げられ、反論の隙は与えられずに。
非難の視線に晒されながら、紅茶をこくりと飲み下した。
当の本人は眠そうな目で、きょろきょろと辺りを見回している。
普段と違う視点から見える景色が興味深いのだろう。たぶん。





「私は放って置いても良いと思うがねぇ」
「……貴方という人は……! 何故いつもいつも楽観的なものの考え方しか出来ないのですか!」
「何故と言われてもねぇ。性分なのだよ、うん」
「ふざけないで下さい!」

白い頬を朱に染めて、きゅうと柳眉を寄せながら。
高く澄んだ声で叱られ、はは、と乾いた笑みを零す。
また何事か紡ごうとした相手の唇をそっと封じた。
人差指を柔く押し当て、しー、と抑えた吐息の声。

「ひとまず、主をどこかへ寝かし付けないかい?」
「、え……あ……」
「眠ってしまったようだよ」

余程あなたの膝が心地良かったのだろうね。
そう囁くと口を閉じ、すい、と両の目を細める。
子供の頬に掛かる髪を払い、そうですね、と微かな声で。





力の抜けた小さな手から空のカップを取り上げて。
さらさらと流れる柔らかな髪を起こさぬようにそっと梳く。

その細腕から主を引き取って、小さな身体を抱き上げた。
少々懐かしい感覚に、自然と頬が綻ぶよう。
幼い寝顔を覗き込む片翼は、とても優しく微笑んでいた。










リクエスト内容(意訳)
「研ちび化 子育て」

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