砂糖菓子のようだと思う。甘く柔らかく、同時に儚い。
手の中にそっと抱くだけでも溶けて壊れてしなうのだから。
だからこそ美しく、同時に酷く愛しいのだろう。
菓子の甘さを知っているから、知ってしまったから、尚のこと。
─桃色天国─
暑くはなく、寒くもなく、風は穏やかに空を凪ぐ。
鳥の姿から人へと転じ、降り立ったのは彩城の中庭。
空からこちらへと視線を転ずる片割れの翼へ微笑んでみせる。
「おや、子供たちは出掛けたのかい?」
きょろりと周囲を見渡しながら、首を傾げてそう問うた。
相手はすいと目を細め、柔らかな笑みを返してくれる。
ああ、きれいだ、と思わず見惚れた。
「ええ。ちょうど街へ出ているのですよ」
そろそろ戻る頃なのですが。
再び空を仰ぎ見て、少し遅いですね、と言う。
その様はまるで母親だ。
帰りの遅い子供の安否を気遣う母親そのものだった。
ふ、と小さく息を吐き、一度翡翠の目を伏せる。
再び開かれたその双眸は、私を捉えてふわりと笑んだ。
やわらかな陽光を思わせる、あたたかな表情で。
「お入りなさいな」
「っ、うん?」
ぼんやりと見惚れていたところに、あまりに意外な一言が齎される。
はっと我に返るが早いか、誤魔化すように声を投げた。
「子供たちが帰るまで、中で待ちましょう」
「いいのかい?」
「……外で待ちたいと言うのなら、止めはしませんが」
この時期ならば寒くもありませんし。
花も見頃を過ぎてはいますが、まだまだ美しく咲いていますし。
どうぞ、ひとりで、ごゆっくり。
にこやかに、けれど翡翠の目は冷たく冴えて。
形の良い唇がつらつらと紡ぎ終わると同時、それでは、と背を向けられた。
薄いベールを翻し、去っていく背中を慌てて追う。
「い、や! 待ってくれ白梟! お邪魔します、お邪魔させて頂きますっ」
「……最初から素直にそうお言いなさい」
くるりと振り向くその顔は、本当にきれいな笑みを浮かべていた。
見惚れてにやけそうになるのを必死に堪えて距離を詰める。
少しだけ低い位置にある蜜色をした繊細な髪が、柔な風に吹かれて揺れた。
あなたはいま、しあわせかい?
そう訊ねたら、あなたはきっと頷いてくれるのだろうね。
このあたたかな世界の中で。やわらかく歪んだ箱庭で。
甘い甘い砂糖菓子のように、美しく愛しいあなただから。
饗された紅茶の甘い香と、掛け替えのない片翼の微笑。
最高の持て成しを前にして、一口含んだ茶の味は……
「……しろふくろう」
「どうしました?」
「砂糖はないかな。あと、ミルクも」
何故だか酷く塩辛いものだった。
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