あまりの寒さに目が覚めて、伸ばした腕が暖を求めた。
同じ毛布にくるまり眠る熱の塊を抱き寄せる。
両腕の中に抱き込めるくらいの小さな体の温かさ。
うっとりと目を細めたら、あたたかな熱が身じろいだ。
―謎かけ―
聴こえてくるのは微かな雨音。窓の硝子を叩く音。
それよりもずっと近い場所から、鼻に掛かったような声が漏れた。
ぱち、と瞬く紅い目と、暖かな色を宿した髪と。
柔なそれを指で梳いたら、くすぐったいよと首を竦めた。
「なに、してるの」
寝起きの回らぬ呂律で問われる。
寝転んだまま、首を傾げた。
目を細め、口端を歪ませ、柔な笑みに見えるよう。
「何してると思う?」
返した問いに、きょとんと丸く目を瞠る。
その間にも春を掬って、くるりと指に絡ませた。
柔らかな癖のない髪は、するりと逃げてしまうけれど。
「髪、撫でてる」
「誰の?」
「……僕の」
訳が解らないと言いたげに、唇を尖らせ俺を睨む。
膨れた頬を軽くつついて、正解、と笑みを返した。
肩から零れた毛布を手に、抱き寄せながら掛け直す。
「寂しがり屋で甘えるのが下手で、病気ばっかしてくれる花白の髪を、撫でてます」
鼻先を春色に埋めて、離せともがく子供を抱く。
小さい体、細い手足。
ちょっと力を入れただけでも折れてしまいそうな、壊してしまいそうな華奢な体躯。
離れたくなくて、離したくなくて、腕に込めた力を少しだけ緩めた。
「おはよ、花白」
紅い眸に負けないくらいの真っ赤な頬がよく映える。
真正面から笑みを向けたら、何か言いたげに開いた口を小さく震わせ目を逸らした。
「……、……おはよう……」
ぼそぼそと返された言葉が嬉しい。
腕に花白を抱いたまま、柔らかな髪を指で梳く。
あたたかな色、やさしい色。
指に絡めてもすぐ解けてしまう、つれないくらいに癖のない髪。
「花白」
「……なに」
「おはよ」
全部ひっくるめて大切で、言葉に出来ないほど愛しくて。
触れた指先から伝わらないかと、期待と心配が半分ずつ。
繰り返した言葉と、動きを止める気のない指と。
どちらもやんわり受け止めてくれて、微かな声が「おはよう」と返った。
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