妙な世界になったものだと事ある毎にそう思う。
楽しげにはしゃぐ子らの輪の中、対なる者の姿を捉えた。
年甲斐もなく駆け回る様からは剣を持つ姿など想像もつかない。
高く上がった笑い声と一様に咲いた笑顔の花と。
平和を謳歌するかのような幸せに満ちたあたたかさ。
輪から離れた春色にだけは、それらが宿ることはなかった。
―哀花―
子供らの輪を遠巻きに眺め、薄く微笑む春の色。
対なる救世主と良く似た顔には若干の幼さが残っている。
湛えた笑みとは裏腹に、緋色の眸は哀しげで。
幸せな輪を映すはずの目は、どこか遠くを見ているよう。
下草を踏む足音を聞き、緋色がこちらを仰ぎ見た。
即座に笑顔を作り浮かべる、最早それは癖なのだろう。
上辺の笑みを繕いながらも哀しげな色は消えぬまま。
何か用? と小さく問われ、ゆるりと首を横に振る。
訝しむ顔の子供に向けて、誤魔化すように問いを投げた。
「おまえはいいのか?」
「……何が?」
返された言葉と傾げた首、ぱちりと瞬く緋色の眸。
交ざらないのか、と紡いだ矢先に一際高い笑い声。
二人揃って視線を転じ、その光景に目を見開いた。
大の大人が地べたに転がり、手足をその場に投げ出している。
小さな子供に助け起こされ、照れくさそうな笑みを浮かべて。
こちらの視線に気付いたのだろう、紅い眸が笑みを象る。
ひらりと白い手が振られ、おいでおいでと手招いた。
困ったような笑顔を浮かべ、春色の子供は立ち上がる。
行くね、と小声で告げる背中を見送るでもなく目で追った。
遠い遠い未来に生まれた哀しい目をした救世主。
彼の子供はどのような世界に生き、どんな日々を送っていたのだろう。
知りたくないと言えば嘘になるが、探り出そうとは思わなかった。
いつの日か、彼の口から語られるまで。
自分から話してくれる日まで、待ってみようと今は思う。
呼び声を受けて顔を上げると件の子供が手招いた。
緋色の三日月に哀しみはなく、代わりに滲んだあたたかさ。
ふ、と零れる笑みを自覚し、内心で酷く安堵した。
リクエスト内容(意訳)
「未来救のことを酷く哀しく愛おしい生きものだと思っている初代玄冬」
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