夢と現の狭間に浮かび、うつらうつらと舟を漕ぐ。
併せて揺れる桜の髪を指に絡めて二三度梳いた。
とろりと蕩けた紅い目が重たげな瞼の下から覗く。
大丈夫かと投げた問いには、何とも頼りない頷きが返された。










─ねないこだれだ─










こと、と肩に掛かる重み。
はっとしたように遠ざかるそれに、くすりと小さな笑みを零した。
並びあって寝台に座す小柄な身体がゆらゆら揺れる。

眠気を必死に耐えているのだろう。
緩く握った柔な拳で開き切らない目元を擦った。
その手を取り、やんわりと制す。
目元の皮膚が赤みを帯びて、痛々しくも艶めいて見えた。





「あまり擦るな。赤くなる」
「……ん」
「眠いか?」
「まだ、へいき」

呂律の回らぬ返答と、半ば伏せられた両の目と。
ともすればまた船出しそうな、危うい子供の肩に触れる。
ぴく、と小さく跳ねる肢体。
ゆるゆるとこちらを仰いだ顔には眠たげな色と疑問のそれ。

「なに……っ」

不思議そうに傾げた首が戻る前に顎を捉える。
指を添え、軽く固定して、触れるだけの口付けをひとつ。
大きく見開かれた紅い目が長い睫毛を揺らし瞬く。
聞こえるはずのない音が、ぱしぱしと鼓膜に響く気がした。





「あ、の」

薄く開いた唇が震え、喉に痞えた声が漏れる。
そのほとんどは言葉にならず、不明瞭な音にしかならない。
見る間に赤く染まる頬に触れ、桜の髪をやんわり撫ぜた。
くすぐったそうに首を竦め、拗ねた色の目で睨まれる。

「……寝ろ」

肩を押せばその身が傾ぎ、呆気なくシーツの海に沈んだ。
仄かに頬を赤く染め、こくりと頷きが返される。
さらりと散った桜の髪と、薄く開いた唇と。
束の間触れた感触を思い出し、ふ、と小さな笑みを浮かべた。










立ち上がり掛けた動きを制す、裾を握った白い指。
無下に解くことも躊躇われ、再びその場に腰を下ろした。











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