天窓を叩く雨音が暴力的なまでに思考を乱した。
時に強く、時に弱く、硝子をばたばた打ち続ける。
それがあんまり煩いから、暗闇を睨み目を凝らした。
何も見えやしないのに。
―雨音―
もぞもぞと小さく身じろぐ気配に、視線をツイと隣へ落とした。
丸まった毛布の端っこから、白い小さな手が覗く。
恐る恐る顔を出して、玄冬は視線を彷徨わせた。
「起こしちゃった?」
やんわり訊ねる。
玄冬はふるりと首を振って、縋るように腕を伸ばしてきた。
小さな小さな白い手を、上向けた手のひらで受け止める。
「どうしたの?」
するりと首に回される腕に、苦しいくらいの力が籠もった。
肩口に埋まる玄冬の髪に鼻先を寄せて問い掛ける。
「雨、嫌い?」
「……きらいじゃない」
「じゃあ雷は?」
「……」
答えはなく、服を握る手に力が篭もった。
どうやら雷は嫌いらしい。
いまはまだ光も音もないけれど、いつ何時訪れるか解らない。
小さく震える背中を撫ぜる。ぽんぽんと軽く、宥めるように。
「大丈夫だよ、俺がいるから」
「……でも、帰らなきゃいけないでしょう?」
こちらを見上げる濃紺の目に、薄く涙の膜がある。
怖いんだろうな、まだ小さいから。
柔らかな髪をくしゃくしゃと撫でて、本当だよ、と笑ってみせた。
「玄冬が怖くなくなるまで、ずっとここにいるから」
この大雨じゃ帰れないし。
小さく肩を竦めてみせ、華奢な体を抱き締める。
きゅう、と腕に力を込めて、濡れた頬に鼻先を寄せた。
「だから、安心していいよ」
腕の中で眠った子供を毛布にくるんで抱き締める。
怖がらないで、泣かないで。大丈夫だよと伝えたかった。
届いているかは解らないけど、覗き見る寝顔は安らかで。
可愛いこの子が眠れるように。
愛しいこの子が怖がらないように。
抱き締める腕で耳を塞いで、そっと額にキスをした。
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