柔らかな頬が僅かに強張り、眉間にきゅっと皺が寄る。
閉ざされた瞼が小刻みに震えて、忙しない眼球の動きを伝えた。
薄く開かれた唇からは吐息ばかりの呻き声。
ひゅっと鋭く喉を鳴らして、長い睫を涙で濡らした。










―月の兎は終焉の夢を視るか―










白い頬を伝う水滴を指の腹でそっと拭う。
シーツを掴む小さな手に、自分の手のひらを重ねて握った。
力を入れ過ぎて色の失せた肌に痛々しいまでの緊張が走る。

「大丈夫だよ」

そう囁いて、小さな背中を何度も撫ぜる。
ぽんぽんと軽く宥めるように、繰り返し、繰り返し。

何の夢を視ているのだろう。
どうして魘されているのだろう。
夢を共有出来ない以上、俺に理由は解らない。
だから、





「大丈夫だよ。ね、花白」

だから代わりに声を掛ける。手を握って、背中を撫ぜて。
怖くないよ、大丈夫だよ、って。
気休めにすら、ならないけれど。

「俺が、いるから」

ずっとおまえの傍にいるから。
力一杯抱き締めたいのを懸命に堪えてそう紡ぐ。
留まることを知らない涙が拭いきれずにぱたぱた落ちた。

シーツを濡らすその水滴を、手のひらの上に受け止める。
何が変わる訳でもなく、夢見が良くなる訳でもない。
自己満足でしかないけれど、これ以上涙を見たくなかったから。





「ねえ、泣かないでよ」

俺の知らないところで、泣いたりしないでよ。
こうして涙を拭ってやっても、夢の中では泣き続けているんでしょう。
俺の手の届かない場所で、ひとりで、膝を抱えてさ。

夢の中では、誰がおまえを慰めてるの。誰が涙を拭っているの。
俺が拭ってやれたらなんて、そう思うことは愚かだろうか。










ねえ、何の夢を視ているの……?











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