猫みたいだとぼんやり思う。耳と尻尾があれば完璧なのに。
長椅子に身を投げ出しながら、じゃれつくように伸ばされる腕。
逃げる間もなく捕まって、くるりと腰に回された。










─陽だまりに猫─










うつ伏せになった相手の髪を引っ張るように軽く梳く。
こちらを見上げる紅い目が、三日月になって薄く笑った。
ほんの僅かに首を傾げて、どうしたの? なんて言いながら。

「寝るなら自分の部屋行けよ」
「エー、だってココ気持ちいいんだもん」

きゅう、と腕に力が込められた。
猫が甘えて擦り寄るみたいに、頭を脇腹に押し付けてくる。
くすぐったさに身を竦め、相手の肩を掴んで押した。
見上げてくる緋色が細められて、にこりと笑みが浮かべられる。





「じゃあ僕が退く。手、離して」
「ヤだ」

花白ったらつれないんだもん。
おにーちゃん寂しい。

なんて言って、一層きつく抱き締められる。
振り解こうにも力は強く、立ち上がろうにも動けない。
恨みがましい視線を投げたら、それじゃあねぇ、と意地の悪い笑みが。

「キスしてくれたらどいてあげる」
「なっ」
「してくれなくてもいいけどね」

ずっとこうしていられるし、俺はどっちでも幸せだなァ。

にやにやと緩んだその頬を、思い切り抓ってやりたかった。
代わりに相手の髪を梳く。
ひとすじ掬って離したり、指にくるりと絡めたり。





相手の頭を抱えるように、そっと上体を傾ける。
見上げる姿勢の相手の額に、軽く唇を押し当てた。
すぐに背筋を伸ばし離れて、ふい、と顔を明後日へ向ける。

「キスはキスでしょ。ほら、どいて!」
「一回、なんて言ってないよね?」
「っ、この……!」

振り上げた手を掴まれて、ぱし、と乾いた音がした。
腰に回された腕が解ける。
伸び上がるみたいに身を起こして、鼻先が触れるくらいに近く。

「ね、キスは?」
「しない!」
「えー」

たぶん顔は真っ赤になってて、相手はそれを面白がってる。
にまにま、にやにや、締まりのない顔で、くすくすと肩を震わせて。
眉尻を下げた柔らかい表情が、優しく笑んだ顔が近い。










「ん、ありがと」











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