偶然見掛けた人影ふたつ。
楽しげに談笑する月白と、その幼馴染である銀閃の姿。
二人が並んで佇む様は誰がどう見てもお似合いだった。
だから、そっと後ずさる。
気付かれないように、邪魔をしないように。
けれどカツンと踵が鳴って、二人の視線がこちらを向いた。
途端に揃って微笑むから、もう逃げることは叶わない。
―お似合い―
優しい声で名前を呼ばれ、手招かれるまま歩み寄る。
なに、と問いを投げるのと同時、伸ばされた腕に捕まった。
ぐいと引かれ、身体が傾ぐ。
抱き留める腕が背中に回され、ぎゅう、と力が込められた。
肩に顎を乗せられたせいで髪が首筋をさらりと掠める。
くすぐったさに身を捩ったら、さっきより強く抱き締められた。
「ちょっ、苦しい!」
「だって緩めたら逃げるでしょ?」
「あたりまえだろ! はーなーせー!」
ぎゃあぎゃあ言い合う傍らで、ふ、と零れた小さな溜息。
はっと見遣ったその先に、呆れた顔の銀閃がいた。
月白の頭を軽く叩いて、いい加減にしろと叱りつける。
渋々ながらも緩まる腕に、ほう、と安堵の息を零した。
銀閃の手が伸びてきて、くしゃくしゃになった髪を梳く。
大丈夫かと問う声が、鼓膜に心にじんわり沁みた。
「ちょっと銀閃。近いよ、離れて」
言うが早いか髪を梳く手を躊躇いもなく叩き落とす。
なんてことを! と目を見開いて、銀閃の顔を窺うけれど。
大丈夫だと言うように、彼は薄く笑うだけ。
「妬いたのか?」
「それなりに」
「おまえひとりのものじゃないんだぞ」
「大事な大事な弟だもの。悪い虫が付かないように守るのは当然のことでしょう?」
頭上を飛び交う会話の中身に顔が火照っていくのが解った。
二人とも笑ってはいるけれど、ちくちくと棘が見え隠れ。
居た堪れなくて身を捩ったら、逃げちゃ駄目、と抱き締められる。
助けを求めて彷徨う視線に、二人の優しい笑顔が映った。
「吃驚した?」
「え、……っわ」
わしわしと髪を乱されて、慌ててその手を捕まえる。
やめてよ! と小さく叫んだけれど、向けられた笑みに口を噤んだ。
綺麗な弓月に目を細め、月白の指が髪を梳く。
何度も何度も行ったり来たり、慈しむような優しい手つきで。
「そんな不安そうな顔しなくても大丈夫だよ。こんなの日常茶飯事だから」
ね? と同意を求める声に、そうだな、と銀閃が苦笑する。
少し屈んで視線を合わせ、悪かったな、と柔らかな声で。
僕の顔を覗き込んで、揃って優しく微笑んだ。
二人が並んで笑い合う姿は、それはそれはお似合いで。
背伸びをしても届かないことが、ほんの少しだけ悲しくて。
けれど二人が僕を挟んで代わる代わる声を掛けてくれるから。
もう少しだけ小さいままでもいいかな、なんて。
そんな風に、思うんだ。
リクエスト内容(意訳)
「隊花+救。幸せな感じで甘やかされる花白」
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