嫌がる花白を膝に抱き、ぎゃあぎゃあ喚く昼下がり。
不意に近付く足音に、二人揃って目を向けた。
あ、と零れた花白の声には嬉しそうな色が滲んでる。
対する俺は顔を顰めて、ふい、とそっぽを向くばかり。










─嘘には罰を─










俺たちから一歩半ほど離れた位置で、乱入者の足がぴたりと止まる。
離せともがく花白の腰を殊更強く抱き寄せた。
その様を見て微笑む顔に驚いたらしい心臓が跳ねる。

「相変わらず仲が良いんだな」
「……アンタ何しに来たんだよ」
「ああ、隊長に漬物の味を見てもらおうと思ってな」

言って手にした包みを示し、食うか? と問われて首を振った。
顎を乗せていた花白の肩がくすぐったいのか小さく揺れる。

「……執務室ならあっちだよ。それから、タイチョー今は留守」
「そうなのか?」
「……そんなことも知らずに来たの?」

つっけんどんな物言いをしても、相手はこくりと頷くばかり。
なんて張り合いのない奴だろう。
フン、と鼻を鳴らしたら、脇腹に花白の肘が埋まった。
ぐりぐりと抉るように動かされると、正直な話、地味に痛い。





「あいつ演習に行ってるんだ、すぐ戻ってくると思うけど」

何なら案内しようか? と言って、花白が小首を傾げてみせる。
するとゴツンと音がして、俺の顎とぶつかった。
痛いと零しても聞いてはもらえず、こちらを見ようともしない。
絶対わざとだ、花白の意地悪。

そんな様子に笑みを零して、熊サンはゆるりと首を振る。
あまり苛めてやるなよと、花白の髪を撫ぜながら。

「邪魔をしては悪いからな。また今度頼む」
「別に、ちっとも邪魔じゃないのに」
「充分ジャマじゃん。早く行ってぐぇ」

どすっと腹に埋まった肘鉄。蛙の潰れたような声。
ごめんね玄冬気にしないでと謝る花白の声が遠い。





「なんで玄冬にあんなこと言うんだよ」

熊サンの背中を見送って、ぼそりと花白がそう問うた。
先程の俺の言動がどうにもお気に召さないらしい。
何よりも熊サンが好きな花白のことだから、分からないでもないけれど。

「だってあの人苦手なんだもん」
「もん、じゃないだろ。ああ見えて傷付きやすいんだからね」

じとりと睨まれ肩を竦める。そんな目で俺を見ないで欲しい。
だって仕方がないじゃないか。どう頑張っても苦手なんだもの。
熊サンと仲良くするくらいならタイチョーに愛を囁いてやるよ。

そう呟いたら目を丸くして、馬鹿じゃないのと吐き捨てられた。
何がと問うたら溜息を吐いて、分からないならいいと言う。





この馬鹿無神経甲斐性なしと呪いのように紡がれる。
ぐいぐいと体重を後ろに掛けられ、腹筋がちょっと攣りそうになった。
無理無理花白勘弁して! と悲鳴を上げても止まらない。

とうとう後ろに倒れ込み、ぐえ、と肺から空気が抜ける。
酷い花白、と涙目になっても、相手はちっとも取り合ってくれない。
鳩尾の辺りに肘をつき、詰まらなそうな顔をして。

「もっと正直になったらどうなの」
「俺は正直に生きてるよ」
「……ふぅん。あ、そう」

じっとりと半ば伏せられた目。頬杖の肘が鳩尾に埋まる。
ぐぐぐ、と掛けられる圧力に、浮かべた笑顔が引き攣った。

「花白、ちょ、さすがにオニーチャン苦しいなっ」
「煩いよ馬鹿。このにぶちん」

口元だけに笑みを刻み、見下すような冷めた目で。
好きなくせにと囁かれた途端、かあっと顔が熱くなる。
言われなくても分かってるよ! なんて、とてもじゃないけど言えなかった。










リクエスト内容(意訳)
「玄冬に対してツンデレな救」

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