ひらりと落ちた一枚の写真。
落とし主は気付かぬ様子で小さく鼻歌を奏でている。
数歩先を行くその足取りは子供のように軽やかだった。
苦笑混じりに息を吐き、屈み込んで腕を伸ばす。
が、触れる寸前、手が止まった。
写っていたのは数歩先を行く幼馴染で、柔らかな笑みを咲かせている。
それは長い長い付き合いの中でも、見たことのない表情だった。
―焦げた飴菓子―
止まった呼吸を再開させ、折り曲げないよう写真を拾う。
少し離れた背中へ向けて、落ちたぞ、と声を掛けた。
振り返る相手の鼻先に、手にした写真をひらりと差し出す。
すると緋色が丸くなり、白い手指が伸ばされた。
「よく撮れているな」
「……うん」
大切そうに受け取る手つきと柔らかな三日月を模す双眸と。
はにかむような淡い笑みを見、心臓近くがしくりと痛んだ。
「……いつ、撮ったんだ?」
仕事で撮ったものならば必ず目にするはずなのに。
見たことのないその一枚に自然と疑問が湧いて出る。
問いを投げると小首を傾げ、記憶を辿り指折り数えた。
ええとね、と紡がれる声は普段よりも柔く甘い。
「この前の休みの時だったかな。熊サンが撮ってくれたんだ」
「……熊……?」
「あ、知らない? あの人ね、子供を撮る時にクマのぬいぐるみ使うんだよ」
だから熊サンって呼んでるんだ。
本人は良い顔しないけど。
くすくすと肩を揺らして笑う、その表情は幸せそうで。
手の中の写真を手帳に挟み、大事に大事に仕舞い込む。
照れくさいのか眉尻を下げ、良い人だよ、と俺を見た。
信頼しきった色の目と、安心しきったその声音。
こちらの抱える痛みなど知らずに、唇からは言葉が零れる。
「口下手で、変なこだわり持ってて、何考えてるのか解んない時もあるけど」
でも、と続ける相手の声は綿菓子のように柔らかい。
ふわふわと甘く連ね綴られ言葉を成して紡がれた。
「すっごく優しく笑うんだよ」
「……そうか」
綻ぶ花を前にして、どうして哀しい顔が出来よう。
幸せそうな幼馴染に、良かったな、と笑みを投げた。
はにかんだ顔、くすぐったい声。
ありがとう、と返されて、心の臓がしくしく痛んだ。
泣くな泣くなと言い聞かせても聞く耳持たずと涙する。
遅かった、遅過ぎたのだ。こんなに近くに在ったのに。
抱えた想いを隠したままで幼馴染の背中を追った。
再開された鼻歌を、聞くともなしに聴きながら。
リクエスト内容(意訳)
「カメラマン玄冬×モデル未来救←マネージャー未来隊長」
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