二言三言交わす度、鴇色の髪を撫ぜる度に、薄い瞼が小さく震えた。
時には細い肩が跳ね、赤い眸が不安定に揺れる。
湛えた笑みは常と変わらず、だのに確かな哀しみを孕んで。
懸命に微笑みを繕う様に心の臓がしくりと痛んだ。
─濡れた花が綻ぶように─
どうかしたのかと静かに問えば、何でもない、と返される。
不思議そうに目を丸くして、僅かに口端を吊り上げて。
ゆっくりと笑みを形作りながら、救世主はことりと身体を預けた。
肩の上には鴇色の髪。
動きに合わせて流れては、さらさらと軽い音を奏でる。
「辛いのか」
問いよりも確認に近い言葉。
ぴくりと震える細い身体に気付かないとでも思っているのだろうか。
肩が、腕が、触れているのに。
隠し通せるはずがない。
「なんのこと?」
精一杯の笑みを繕い、微かに首を傾げてみせる。
その目元すらも笑みに歪めて必死になって誤魔化すけれど。
一対の緋に滲んだ色を隠し通すことは出来なかった。
「おまえの選択は間違いじゃない」
投げるべき言葉など解らない。
伝えたいことのすべてを紡いだとしても届かないだろうことだけは解る。
びくりと過剰に跳ねる気配、零れんばかりに見開かれた目。
笑みを繕うことすら忘れて薄く開いた唇が戦慄く。
「……なん、で……そんなこと」
顔を、身体を、相手へ向けて、その白い頬にそっと触れた。
ひんやりと冷たい体温と、またも震えるその肌と。
今にも泣き出してしまいそうな、揺らぐ緋色を視界に捉えて。
「俺がおまえの立場にいても、同じ選択をしただろうから」
「……何も知らない、小さな子でも……?」
「ああ」
くしゃりと歪んだその表情を、やんわりと胸に抱き込んだ。
不安定に繰り返される身体の震えと涙声。
しゃくりあげる度に肩が跳ね、呼吸が止まって、また涙。
華奢な身体で、細い腕で、どれだけのことを抱えたのだろう。
救世主として生を受け、玄冬を殺す役割を負って。
望んで得た役ではないのだろうに。
欲した力でも、ないのだろうに。
「だから俺は、おまえに感謝している」
告げれば再び肩を震わせ、縋るような手が服を掴んだ。
白く華奢な作りの手には血の気が失せるほどの力が込められている。
そっと己が手のひらを重ね、冷えた手指をやんわりと握った。
押し潰されてしまいそうな細い身体を抱き締める。
涙に震える背に手を這わせ、あやすように軽く撫ぜた。
ようやく落ち着きを取り戻し、ゆるゆると離れる鴇色の髪。
こちらを仰ぐ赤い目には未だ涙が残っている。
頬を伝った涙の筋を、目尻の雫を指先で拭った。
擽ったそうに首を竦める、照れくさそうなその表情。
指を濡らしたその哀しみを、すべて拭ってやれたなら。
そんな思いを抱えたまま、戻った笑顔に胸を撫で下ろした。
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