やたらと大きな荷物を抱えて、きょろきょろと辺りを見回す仕草。
所在なさげなその背を見付けて、足音を殺し二歩三歩。
あと一歩の距離で立ち止まり、熊サン、と相手を呼んだ。

驚いたように身を震わせて、慌ててこっちを振り返る。
丸く丸く瞠られた目に、にっこりと笑みを投げてやった。










─予期せぬ茶会に甘い菓子─










何度も城へは来ている癖に、どうして道を覚えないんだろう。
こうも繰り返し迷子になれるなんて、これは一種の才能じゃないか?
いくら構造が似ているからって、覚えられないものなのかな。

笑顔の下でそう思いながら、どうしたの? と彼に問う。
熊サンが城に来る理由なんて十中八九、花白関連。
だから今日は先手を打って、ちょっと出鼻を挫いてみた。

「花白ならいないよ?」
「……そう、なのか……」

ああほら、当たった。
目に見える変化は少ないけれど、ほんの少しだけ眉が下がってる。





「仕事サボってたみたいでさ、タイチョーに連れられて行っちゃった」

しょうがないよねーアイツもさ、と軽い口調でそう告げた。
もっとも、俺もサボりだけどね。
話を聞いているのかどうか、熊サンはやや俯き加減で。
手にした荷物に目を落とし、何事か考え込んでいた。

「何なら付き合ってあげてもいいけど?」

興味本位で投げた言葉に熊サンは再び目を丸くして。
一秒二秒三秒経って、ふむ、と小さな頷きひとつ。
出直すとか、花白の所へ案内しろとか、そんな言葉を予想していたのに。





「それもそうだな」
「……、……はい……?」

返された言葉は予想外のもので、素っ頓狂な声が漏れる。
抱えた包みを差し出されて、咄嗟にそれを受け取った。
ずっしりと重い包みの中から甘い匂いが漂ってくる。

「菓子を焼いてきたんだが、二人で食べるには多過ぎるんだ。丁度良い」
「えっと、あの……熊サン……?」

立ち尽くす俺を追い越して、どうしたんだ? と振り返る。
重かったのかと包みを取り上げ、尚も動けずにいる俺を見た。





「付き合ってくれるんだろう?」

主人を見詰める仔犬みたいな、疑うことを知らない目で。
不思議そうな顔をして、ほんの僅かに首を傾げて。

「……お茶、淹れてきます」
「ああ、頼む」

ふわりと笑みを向けられて、反論しようという気は失せた。
俺の淹れたお茶と、熊サンの作ってくれたお菓子。
甘い焼き菓子に舌鼓を打ち、叶わないな、と苦笑した。











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