慣れというのは恐ろしいもので、余程のことがない限り驚くことはなくなった。
体の変化に気付いても、溜息ひとつ吐いただけ。
ただ少しだけ気掛かりなのは、周囲の人間の反応だった。
現に今、目の前にいる大切な友人は目を見開いて絶句しているのだから。
─髪を結う手─
背中の中程まで伸びた髪は邪魔になるからと括っていた。
けれど髪結いの紐は解かれて、重力に従い流れている。
肩を過ぎたあたりから、ゆるく波打つ長い髪。
それをしげしげ眺める様子は、どこか子供のようにも見えた。
「……玄冬、」
「なんだ?」
「……えっと……その、」
髪を弄ぶ手を止めて、どうかしたか? と首を傾げる。
喜々として編んだ髪を握って、どうかしたかはないと思う。
「ずっと見てて、飽きない?」
「飽きない」
「……そう」
きっぱりと言い切られてしまっては、頷き俯くしか出来ない。
そんな様子に気付きもしないで、玄冬の目は再び僕の髪へ。
自分で作った編み込みを、今度はゆっくり解いてく。
ふわふわと細かく波打った髪を、玄冬の指が行ったり来たり。
楽しいのかな、なんて思って、知らず知らず溜息がひとつ。
「花白、」
「え?」
「どうか、したか?」
今度はちゃんと僕の目を見て、心配そうに訊いてくる。
具合でも悪いのかと顔を覗き込むものだから、慌ててグイと肩を押した。
「い、いつになったら戻れるのかなって、ちょっと思ってただけだから!」
咄嗟に繕う真っ赤な嘘。
けれど玄冬は首を傾げて、少しだけ寂しそうな顔をした。
どうしたの、と問いを投げたら、頬にそうっと手を添えられて。
「……戻りたいのか?」
あたりまえでしょ、と返したら、そうか、と頷き目を伏せる。
胸元で揺れる髪を手に取り、慈しむようにやんわり撫ぜた。
可愛いのに、と零れた声は聞こえなかったことにしよう。
少しだけ嬉しく思ったなんて、断じて認めてやらないんだから!
リクエスト内容(意訳)
「システムバグで花白が女の子に。甘く」
一覧
| 目録
| 戻