話したいことがあったはずなのに、いざとなったら言葉に出来ない。
喉の奥で塊になって、つかえてしまって出て来ない。
情けなくて苦しくて、もどかしくて、下を向いた。
ぽん、と頭を撫ぜられる。
玄冬の手だって解るから、尚更顔を上げられなかった。
―しあわせ音色―
ページを繰る手が止まってる。
ちらりと覗き見てみたけれど、内容までは解らなかった。
野菜を育てる専門書かもしれない。
玄冬は緑を愛してるから。
「落ち着かないな」
ほろりと声が降ってきた。
僕より背丈はずっと高いから、文字通り雨みたいに降り注ぐ。
柔らかな音、優しい色。
もっとちゃんと聞きたくて、下ばかり見る目を閉じた。
「そうかな」
「ああ。何かあったか?」
ことんと身体を玄冬に預けて、あのね、と小さく口を開く。
そこまでは良かったんだけど、やっぱり上手く言葉に出来ない。
頭は必死で考えてるのに、舌に乗る手前で消えてしまう。
「何だ?」
「……ううん、なんでもない」
不思議そうな声で、そうか? と言って。
玄冬がぽん、と頭を撫でた。
軽く引っ張るみたいにして、僕の髪を梳いてくれる。
何度も何度も、繰り返し。
優しい手つきが心地よくて、うっとりと両の目を閉じた。
真っ暗になった僕の世界。
聞こえてくるのは玄冬が髪を梳く小さな音だけ。
とろとろと湧いて来た眠気に負けじと目を擦ったりしてみたけれど。
今日は勝てそうにないみたい。
ゆらりゆらりと揺らぐ頭を、玄冬の手のひらが支えてくれた。
寄り掛かっても、いいのかな。
肩を貸してと言おうとして、開いた口から言葉は出ない。
半分以上閉じた目と、白く霞んでいく思考の中で、玄冬の声を聞いた気がした。
ねえ、いま僕は幸せだよ。
思うことが出来ても言葉にはならない。
頭の中に浮かんだことが君に全部伝わればいいのに。
大好きだよって、伝わればいいのにね。
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