ふわりと漂う香に酔う。
花だろうか、果実だろうか。
正体の知れぬ香に惑い、煽られる自身に苦笑した。










―香に眩む―










鼻腔をくすぐる甘さを辿り、白い首筋に顔を寄せる。
ぴくりと跳ねた肌を食み、軽く歯をあて舌でなぞった。

「……っ……」

途端に大きく跳ねる四肢、小刻みに震える柔い肌。
瞼で緋色を覆い隠し、眉を寄せる様にさえ煽られる。

赤く染まった目の縁に、触れるだけの口付けをひとつ。
それにすら震え、声を漏らすのだ。
理性の箍など幾つあっても足りはしない。





「ぅ、あ……くろと……っ」

切れ切れに呼ぶ声に応えて、そっと顔を覗き込む。
上気し染まった赤い頬と、熱と涙で潤んだ眸。
薄く開いた唇からは、ひゅう、と掠れる吐息が漏れた。

額に貼り付く髪を払うと、焦点の危うい視線が揺らぐ。
かちり、重なる二対の目。
緩やかに笑む、艶めいた緋色。

「くろと」
「っ、」

顔に熱が集まる気がした。漂う香気が強くなる。
花か果実か別の何かか。その正体は知れぬまま。
眩む思考と煽られる熱。





蕩けた緋色はそのままに、嬉しそうに、苦しそうに、花白は俺の名を紡ぐ。
強請るように伸ばされた腕が首の後ろに縋り付いた。
不意に縮められた距離に戸惑い、逸らした視線に飛び込む赤色。

点々と散ったその色彩は、紛れもなく自ら咲かせたもの。
思わず止めた息を吐き、熱に震える肌を撫ぜた。
過剰なまでに跳ねる身体と、浅く繰り返される甘い呼気。
いやいやをするように首を振る度、桜の髪がシーツを掃く。





「……ぃ、」

びく、と細い身体が震え、引き攣った声が迸る。
堪えるように噛み締めた唇が、色を失い白く映った。

「痛いか?」
「っア、ぁ……へ、いき……っだから、」

縋る手に力が込められる。
引き寄せられるままに顔を近付け、掠れた声を耳で拾った。

「だ、からっ……やめ、ないで……」

首筋にかかる吐息が熱い。
鼻先を掠める甘い香に思考も理性も塗り潰された。










ああ、眩む。











一覧 | 目録 |