その視線には気付いていた。
同じだけ、彼を見ていたのだから。
真っ直ぐな好意をぶつけてくる、愛らしい友人を。
─片恋─
くるくると変わる表情を、気付けばこの目で追っていた。
花白に対して抱いた感情が友愛でないと気付いたのは、恐らくこの時だろう。
桜色の髪と、宝玉にも似た紅い眼。同性であることを疑うような線の細さ。
仄かに色付く柔らかな頬に、触れたいと思った。
けれど、
「っこら、花白! おまえまたっ」
「文句は帰ってから聞くよ!」
ばたばたと近付く足音と、聞き慣れた声の遣り取りと。
視線を転じてそちらを見遣れば、鮮やかな桜色が駆けて来る。
俺の姿を捉えた目が、丸く瞠られ、次いで笑む。
「玄冬、こっち!」
「なっ、おい!」
「玄冬! 貴様もか!」
違う誤解だと言い返す間もなく、くん、と腕を引っ張られた。
いつの間に掴んだのか、俺の手を花白が握っていて。
引かれるままに早足になり、次第にそれは駆けるそれへと。
後ろから迫る怒号と足音。握られた手に灯る熱。
ちらりと背後を窺うと、鈍い銀髪が飛び込んできた。
鮮やかな空を模した目が、剣呑な色を滲ませている。
視線を戻し、半歩ほど前を駆ける花白を見た。
走ったせいで頬は上気し、息と肩とは弾んでいる。
紅い目には、どこか嬉しそうな色。
仄かな笑みすら浮かべながら。
その視線には気付いていたのだ。
向かう先にいる相手にも。
「っ、いいのか、花白っ」
「なにがっ?」
弾む息と、切れ切れの声と。
視線は決して交わさずに、ただ言葉だけが飛んでいく。
背後で鈍い音がした。それと同時、足音も止む。
「隊長、コケたぞ」
「……」
足を止め、振り返る。
石床に伏せた幼馴染を見、腹を抱えて花白は笑った。
すぐさま跳ね起きた彼に追われ、すぐにまた鬼ごっこは再開される。
友愛でないと気付かなければ良かった。
彼の幼馴染に向ける視線と、そこに含まれる熱の正体など。
知らずにいれば、良かったのに。
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