玄冬が好きだ。心の底から。
大好きな人、大切な人、ずっと一緒にいたい人。
手を繋いだり、キスをしたり、もっと玄冬に触れたいと思った。
それと同じかそれ以上に、触れてほしいとも思ってたんだ。










―ぜんぶあげる―










煌々と照る月の光は今の僕には明る過ぎた。
目の前にいる玄冬の顔が薄闇の中でも見えるから。
自分の浮かべる表情が、相手の目にも映るから。

「平気か?」
「っ、うん……あ……ン」

頷きだけを返すつもりが甘ったるい声まで吐き出してしまう。
飲み込みたくても叶わずに、唇を噛んで必死に殺した。
痛みを覚えるくらいに強く。
鼻に掛かったような声が自分のものだと認めたくなかった。





「……花白、」

熱を孕んだ声で呼ばれる。
長い指が伸ばされて、諫めるように唇に触れた。
言葉で聞いてはいないけれど、噛むな、という意味だろうと思う。
薄く口を開いてみせれば、柔らかな笑みが返されて。

僅かに痺れた唇を、つい、と指先でなぞられた。
ぞくりと背筋が総毛立つ。
触れられた箇所から湧き出た熱が、甘く痺れて下肢へと落ちた。
頬を撫ぜられ目を細めると、掠れた声で囁かれる。

「辛ければ、言えよ」
「……は……あっ……、……ぅ」





痛くはない。少しだけ、苦しい。
追い払おうと首を振る度、髪がぱさぱさとシーツを掃いた。
きつく目を閉じ行き継ぐ合間に、花白、と名を呼ばれた。

滲む視界を無理矢理開いて、朧な像の玄冬を映す。
伸ばされる腕を避けもせずに、触れられることを享受した。

「……くろと……」

目に掛かる髪を払ってくれる。
汗ばんでいる玄冬の手が、頬を撫ぜ、首筋に触れた。
労るように、宥めるように、触れては離れを繰り返す。

シーツに縋る手を引き剥がして、彼の手首を捕まえた。
首から、喉から、離れないように、軽く力を込めて押さえる。
不思議そうな青い眸に、強請るように言葉を紡いだ。





「絞めても、いいよ」





見開かれる目に微かな笑みを。
同じ台詞を吐き出す前に、顔を寄せられ口を噤んだ。
深い溜息、表情は見えない。

「……馬鹿言え……」
「ぇ……あ……ッ」

掴んだ手首がするりと抜けて、逆に自由を奪われる。
シーツに両手を縫い止められ、身体の奥がぎしりと軋んだ。
ひ、と上擦る嬌声と、過剰に跳ねる呼吸と肌と。
譫言のように玄冬の名を呼び、背に縋る以外は何も出来ずに。





追い詰められる意識の底で、ほんとうなのに、と微かに思う。
さっきの言葉に嘘なんてない。
玄冬になら殺されたって構わないのに、と。
口にしたら叱られるから、黙ったままでいるけれど。










玄冬になら、僕を全部あげるのに。











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