ふっと意識が浮き上がった。
机に伏して寝ていたらしく、開いた視界に木目が映る。
枕代わりの腕を伸ばして、はた、と両目を見開いた。










―午睡―










視線の先にはカップがふたつ。
ひとつは空っぽ、もうひとつは中身が半分くらい残ってる。
すっかり冷めてしまったらしく、ほっこりと立ち上っていた湯気がない。

「……玄冬……?」

小さな声で名前を呼んだ。
向かい合う位置にいるのだから聞こえないはずないのだけれど。
緩く組んだ腕を枕に、顔を伏せたまま動かない。

耳を澄まさなければ聞き逃してしまうような、ほんの微かな息遣い。
それにあわせて上下する背中。





「寝ちゃったの……?」





椅子を鳴らさないよう立ち上がる。
テーブルに手をついて、伸び上がるみたいに顔を覗き込んだ。

深い青色の目は閉じられて、伏せた瞼には睫の縁取り。
いつもは引き結んでいる唇が、うっすらと開いていたりもして。
普段より少し幼く見えて、ほう、と小さく息を吐いた。





……珍しい、な……。





頬が緩む。目尻が下がる。
にやけた笑顔を止められなかった。
起こさないように声は殺して、くすりと小さな息を零す。

開きっぱなしの本のページを押さえるように置かれた手。
長い指の作る柔らかな曲線。
慎重に椅子に座り直して、頬杖をついてじっと眺めた。





もう少しだけこうしていよう。滅多に見られるものでもないし。
そろりと伸ばした指の先で、玄冬の髪にそっと触れる。
気付かれないように、起こさないように。
真っ直ぐな髪に口付けた。











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