いるのかいないのかよく解らない。
時々身体の向こうが透けている。
そんな滅茶苦茶な存在が、この世界を作ったカミサマらしい。
信じる信じないは別にして、頼りないな、とぼんやり思った。










―紡ぐ手―










起きているのか眠っているのか座ったままの身体が揺れてる。
ゆらりふらりと不安定に、ちょっとつつけば倒れそうだ。

隣にストンと腰を下ろして、ねえカミサマ、と相手を呼ぶ。
眠そうな目が緩やかに開いて、菫の色がちらりと覗いた。
ゆるりゆるりと揺れる視線が俺の姿を捉えて止まる。

「……なんだ」
「どうして俺だけ連れて来たの」
「……、……なに?」
「俺だけこっちに連れて来たのは、何故?」

相手の両目を真っ直ぐに見て、逸らされないよう顔を寄せて。
理由があってのことだったの?
カミサマなら俺を元の世界へ帰すことが出来る?
と、疑問符ばかりを繰り返し。





ふ、と相手が息を吐き、菫の双眸を僅かに細めた。
溜息にも似た深い呼吸の後、もたらされたのはたったの一言。

「知らぬ」

一度伏せた目をゆるり開いて、俺の目の中を覗き込む。
全てを暴かれてしまいそうで、俺は思わず目を閉じた。
ふ、と息を吐く音がする。笑ったんだろう、たぶん。

「言ったろう。我は影だと」

薄く開いた視界には、がりがりと頭を掻く姿。
銀色の髪を僅かに乱して、ふん、と小さく鼻を鳴らした。

「我は我であって我ではない。真の我ならば叶うやもしれぬが」

我には出来ぬ、と呟いて、再び瞼を引き下ろす。
ぱたりと落ちたカミサマの手は、やたらと細くて白かった。
病的と呼ばれる一歩手間。
そんな表現がぴったりなくらいに。





「帰れない、ってこと?」
「そうだ」
「……そっか」

あっさりと頷き返されて、それきり何も言えなくなった。
帰れないような気はしていたから、覚悟は出来てるつもりだったけど。
でも、少しだけショックだった。

「……帰りたいか」

不意の問い掛け。
俯く視線はそのままに、小さく首を傾げてみせる。
相手には見えていないだろうけど口の端に笑みすら浮かべて。

「わかんない。けど、でも、」

でも、の続きは飲み込んだけど、カミサマは何も言わなかった。
気を遣ってくれたのか、単に興味がないだけなのか、それは俺には解らないけど。










俺はこの世界、嫌いじゃないよ。











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