兄弟仲が良いというのはとても素晴らしいことだと思う。
思うけれどね、ねえ二人とも。
もうちょっとおとーさんに構ってくれてもいいんじゃないのかい!?
─これが日常─
午後のお茶の用意をして、椅子に座った二人の子供。
片割れは子供と呼べぬくらいに大きく育っていたけれど、私の子であることに変わりはない。
もっとも、血は繋がっていないんだが。
こぽこぽと注がれる澄んだ緑と、馥郁と漂う茶葉の香り。
コト、と置かれた茶器の水面がゆらりゆらりと揺らめいた。
「茶葉、変えたのか?」
「ああ。店主に薦められて買ってみたんだが」
「……いい匂いだ」
「そうか」
小さなくろとの素直な言葉に、彼は薄い笑みを浮かべる。
それは良かったと囁く声が、普段より柔く聞こえるようで。
仲良きことは美しきかな、と自分の茶器を手に取った。
が、
目の前で行われた遣り取りに、思わずつるりと手が滑る。
持ち直そうとしたのも虚しく、茶器は倒れて中身が零れた。
やたらと派手な音を立て、床にまでお茶を滴らせて。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫かじゃないよ! 何をしているんだい君たちは!」
「……何って、」
一人慌てる私を他所に、子供らは顔を見合わせた。
茶請けの菓子を摘まみ上げ、ほら、と相手の口元へ。
雛鳥よろしく開けられた口に、ぽいと菓子を放り込む。
「味見をしてもらっただけなんだが」
困惑気味に呟く玄冬に、私は内心頭を抱えた。
いや、現実にも頭を抱え、あーだのうーだの低く呻く。
確かに二人は仲がいい。仲がいいのは良いことだ。
けれどこれは少々まずい。
だって二人は仮にも兄弟だそうだろう?
いや、まずいまずくないの問題はさて置いて、おとーさんも混ぜて下さい。
「もう少し甘くてもいいと思うぞ」
「そうか?」
「おれやおまえならともかく、子供は甘い方が好きだろう?」
葛藤に呻く父親を他所に、子供らは言葉を交し合う。
参考になったと微笑む玄冬が、くろとの頭を軽く撫でた。
微笑ましい、ああ、羨ましい!
ほんのちょっとだけ寂しくなって、ぐすん、と小さく鼻を鳴らす。
けれど気付いてはもらえない。
それどころか早く片付けろと言われてしまい、硝子の心に皹が入った。
ああ、もう少しで砕けてしまう。
一縷の望みを右手に託し、息子手製の菓子へと伸ばす。
しかしその手は叩き落され、おまえにはナシだと無情な一言。
小さいくろとには食べさせるくせに、私の分はナシだなんて。
硝子の心は脆いんだぞう! と訴えた所で聞く耳持たずだ。
代わりに差し出された雑巾を目にし、美しくも繊細な私の心は音を立てて崩れてしまった。
「なあ大きいの」
「……なんだ」
「黒鷹、拗ねたぞ」
「放っておけ。すぐに直る」
べそべそと泣く父親の姿を見かねたくろとが声を掛ける。
けれど助け舟にはならず、結局は見守るだけだった。
ほら、と差し出された甘い菓子を、開いた口で受け止めて。
もくもくと租借する最中、仕方のない奴、と溜息を吐く。
何だかんだと厳しくしても、結局は父親に甘いらしい。
小皿に取り分けられた菓子を見て、そっとそっと笑みを零した。
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