とろとろになったジャガイモとタマネギ。
花の形に切られたニンジン、彩りを添えるブロッコリー。
マッシュルームの隣には黄色く甘いコーンの粒。
子供の喜ぶ見た目と匂い、けれど漂う緊張感。
ぎしりと軋む空気の中で、小さく小さく溜息を吐いた。
─Sauce Bechamel─
鳥の雛に餌をやるように、口元に差し出された木製のスプーン。
ふくふくと湯気の立ち昇る様は腹の虫を刺激する。
だのに彼は頑として口を開かず、眉間にぎゅっと皺を寄せた。
ふむ、と一旦スプーンを戻し、再び中身を一掬い。
鶏肉だぞ、と言いながら、ズイ、と僅かな距離を詰めた。
「っ、だから、嫌いなんだって何度も言ってるだろ!?」
その手を掴んで押し返しながら、悲鳴にも似た声で救世主が叫ぶ。
大きい俺の左手には、翡翠色の深皿がひとつ。
中身は温かいホワイトシチュー。
朝から彩城の厨房を借りて、大きい俺が作っていたものだ。
「子供でも食べられると言うのに恥ずかしくはないのか?」
「恥ずかしいも何もないよ! 嫌いなものは嫌いなの!」
だってそれホワイトソース使ってるんでしょ?
もたっとしてて変に甘くて、ああもう考えるだけで胸やけがする!
嫌だ嫌だと首を振ってシチューから距離を取ろうとするけど、大きい俺がそれを許さない。
一口でいい、だの、すぐに終わる、だの。
どことなく不穏な言葉でもって食べさせようと奮闘していた。
「……味はまともだぞ?」
「そういう問題じゃないっ」
おれの隣で味見をしていた隊長の言葉にも噛み付く始末。
ぎぎぎ、と腕の軋む音がここまで聞こえてくるようだった。
文句を言って開いた口に、スプーンがひょいと押し込まれる。
救世主は両目を見開いて、声にならない悲鳴を上げた。
大きい俺の勝ち誇ったような表情は、まるで悪代官のよう。
逃げよう逃げようとするあまり、体重が背凭れへと掛かる。
カタ、と小さな音がして、救世主の体が傾いた。
大きい俺の腕を掴んだままで、椅子ごと後ろへガタンと倒れる。
「っおい、大丈夫か!?」
慌てて駆け寄る隊長が目を見開いて顔を背けた。
大きい俺も慌てたように、忙しなく目を泳がせている。
床に転がる救世主の顔にはシチューが点々と散っていた。
ごほごほと噎せる口元も、零れたシチューで白く染まる。
痛みのためか涙目になって、恨みがましく上目で睨んだ。
「大丈夫か?」
「……だいじょうぶじゃない」
大きい俺を押し退けて、腰が痛い、なんて言いながら。
よろりと起き上がる救世主の、汚れた口元を拭いてやる。
大人たちは声もなく、身動きも出来ずに突っ立っていた。
そんな
二人を横目で見つつ、救世主の手を軽く引く。
「着替えた方がいい。それと、顔、洗うだろう?」
「あ、うん。こぐま君は優しいね」
「……別に、普通だろ。こんなの」
ふい、と逸らした顔が赤いのは照れているからだけではない。
けれど相手は気付かぬ様子で、おれの手をきゅうと握り返した。
残されたのは駄目な大人と床に転がるシチュー皿。
零れた中身が片付けられるのは、きっと冷めてからのことだろう。
リクエスト内容(意訳)
「ホワイトソースを無理矢理食べさせられる救。噎せて零れたものに妄想する銀朱と玄冬とこくろ」
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