右手には仏頂面した玄冬、左手には年嵩の救世主。
どちらも僕の手をしっかり握って、無言のままで睨み合いだ。
気まずい、逃げたい、居た堪れない。
そっと零した溜息にすら、二人が気付く様子はなかった。
─琴線─
延々と続く無言の応酬。
一人は口をへの字に曲げて、眉間に薄っすらと皺を寄せている。
もう一方は口角を上げ、笑みの形に目を細めていた。
ただし眸は笑っていない、上っ面だけの冷たい表情で。
視線が目に見えるものならば、雷みたいにバチバチと光るに違いない。
そんな二人に挟まれて、僕はただただ耐えていた。
しっかりがっちり手を握られていては逃げたくたって叶わない。
「たまには譲ってくれたっていいんじゃない?」
「そっちこそ。四六時中一緒にいるのだろう?」
「へぇ、妬いてるの」
「……さあな」
ぎすぎすとした空気が満ちる。
なんだか息がし辛いような、そんな錯覚に陥った。
とりあえずこの手を離して欲しい。
そう願った所で叶わないけど。
なんでこういう時に銀朱は席を外しているんだろう。
あいつがいたら有無を言わせず二人を押し付けて逃げてやるのに。
来い来いと念じても天には届かず、姿どころか足音もしない。
はあ、と吐き出す何度目かの溜息が虚しく消えていくだけで。
「花白も疲れてきたみたいだし、そろそろ白黒はっきりさせない?」
「望むところだ」
ゆらりと闘志を漲らせ、二人はにやりと口元を歪めた。
何をするつもりか知らないけれど、これ以上巻き込まれたら堪らない。
深く大きく息を吸い、それをゆっくり吐き出した。
それから強く奥歯を噛み締め、ガタンと椅子から立ち上がる。
「もういい加減にしてよ!」
二人の腕を振り払い、振り向き様に吐き捨てる。
驚き丸くなる二対の目を、交互にきつく睨み付けた。
「喧嘩すんなら他所でやって! いちいち巻き込まれてたら堪らないよ!」
言ってくるりと踵を返し、ずんずんと扉の方へと向かう。
慌てたように名を呼ぶ声は、じろりと睨んで黙らせた。
バンッと開いた扉を潜り、硬直している二人を見る。
にっこりと満面の笑みを浮かべてやったら、揃ってびくりと肩を揺らした。
「僕、出掛けるから。帰って来るまでに仲直りしてね。それから、」
一呼吸置いて笑みを消すと、二人がひゅっと息を呑んだ。
口元だけを吊り上げて、低く甘く吐き出した声。
「絶っ対に、ついてこないで?」
びたっと身を寄せ合いながら、声もなく、ただ頷いて。
そんな二人の姿を見、ほんの少しだけ胸のすく思いがした。
パタン、と閉じた扉に背を向け、足取りも軽く歩む道。
擦れ違う者もない回廊に、足音だけがカツカツと響く。
たまには二人で困ればいいんだ。
僕だって怒る時は怒るってこと、思い知ればいい。
フンと小さく鼻を鳴らして向かった先は執務室。
とりあえず銀朱でもからかいながら時間を潰すことにしよう。
リクエスト内容(意訳)
「玄+救→花。花白取り合い」
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