上着の留め具もそこそこに、扉を開けて飛び出した。
吐き出す息は白く濁って冷たい風に攫われる。
汚れも気にせず地べたに座り、喉を晒して仰いだ夜空。
きらきら輝く満天の星に、ほう、と感嘆の息を吐いた。










―天上の花、地上の星―










寒さに体を震わせていたら、近付いてくる足音がふたつ。
ふわりと肩に毛布を掛けたのは仏頂面の幼馴染。
ちゃんと着たのかと問いながら、首からしっかり覆ってくれる。

その温かさに目を細めたら、鼻を擽る甘い匂い。
ぱちり瞬く目と鼻の先、ふくふく湯気立つカップがあった。
差し出す玄冬の優しい笑顔が暗い中でも目に浮かぶ。
両手でそっと受け取って、ありがとう、と小さく告げた。

二人は左右に分かれて座り、同じように空を仰ぐ。
すごいな、と小さく零れた声は、左に座った銀朱もの。
ぽかりと口を開けたまま、蒼い目は星を追っていた。




「彩ではここまで見られないだろう?」
「……ああ……街が明るいからな」

交わす言葉は密やかな音。
視線は夜空へ注がれて、ちらとも交わることはなかった。
それでも寂しさは微塵も感じず、心がふくりと温かい。

「あ、」
「うん?」
「いま、流れたよ」

あそこ、と指差し示したけれど、広い空には曖昧過ぎて。
けれど再び流れた光に三人揃って息を詰めた。
長く短く尾を引き流れる、ほんの刹那の星の花。
ひとつふたつと数え切れずに、次から次と咲いては消える。





不意に寒さを思い出し、ふるりと小さく身を震わせた。
空のカップを地べたに置いて、二人の腕を引き寄せる。

どうしたのかと両側から問われ、ふふ、と零した笑い声。
ぎゅうと腕を絡めたままで、身体をぐいと後ろへ倒す。
小さな抗議も驚く声も、右から左へ聞き流して。
込み上げる想いに誘われるまま、くすくすころころ喉を鳴らした。

三人並んで寝転んで、ぼんやり仰いだ満天の星。
吹きゆく風は冷たいけれど、隣合う二人はあたたかいから。
流れる星を目で追いながら、きゅうと鳴く心を抱き締めた。










リクエスト内容(意訳)
「玄+銀+花。のんびりほのぼの」

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