子供らの姿を追い掛ける目に、じわり滲んだ哀しげな色。
薄っぺらい笑みで隠そうとしても気付かぬうちに露わになる。
本人は気付いていないのだろう。相も変わらず笑っていた。
悲哀に染まる目を細め、真っ赤な嘘を纏いながら。










─眼差しの色、冷えた指─










繋いでいたはずの手が離れ、小さな足音が向かう先。
くろと! と元気よく共の名を呼び、短い腕を相手に回して。
子供らしい姿に目を細めながら、ちらりと隣の男を見遣る。
気を付けろよと声を投げ、ひらひらと手を振っていた。

「タイチョ? なに、どうかした?」

こちらの視線に気付いたらしく、ことりと首を傾げ問う。
不思議そうな紅い目に、今は悲哀の色はない。
正直に言うか誤魔化すか、迷っていたのはほんの一瞬。
腹を括って開いた口から紡ぎ投げ出すひとつの疑問。





「小さいくろとと何かあったのか?」
「何かって?」
「随分と長く見送っていただろう?」

はなしろと共に去り行く背中。ぱたぱたと軽い二人の足音。
兄貴分として心配なのだろうと、ずっとそう思ってきたのだけれど。

向かう視線は黒の子へ。滲んだ想いは哀しげな色。
気付いた事実から目を逸らせずに、こうして彼に問い掛けた。
けれど相手はいつものように、くしゃりと笑みを浮かべてみせる。

「こんな寒いのに元気だなぁって、思ってさ。子供は風の子ってホントだね」
「……そう、だな」

はぐらかされた、そう悟る。
本人にその気はないのだとしても、築かれた壁が哀しかった。

打ち明けて欲しいと思いこそすれ、無理に聞き出したくはなかった。
ひとり抱えたその何かを、彼が自分から口にするまでは。
無意識のうちに遠ざけるほど知られたくない事柄なら尚のこと。





密やかに零した溜息ひとつ。未だ笑む相手の手を握る。
きょとりと瞬くふたつの緋色が、驚きを浮かべて俺を見た。
なに? と小さな問いを受け、呆れた顔を装い紡ぐ。

「……寒いんだろう?」
「え。あー、うん。さむいです」
「そんな薄着でいるからだ。戻るぞ」

有無を言わせぬ強い口調、掴んだ腕を引きつつ歩く。
不思議そうに瞬きながらも相手は大人しくついて来た。
それに密かに安堵して、見えない位置で息を吐く。

「どこへ?」
「仕事だ」
「ええー」

不満も露わな声を出し、けれど相手はころころと笑った。
そっと俺の手を握り、あったかいね、と甘い声。
おまえが冷えているんだろうと投げた言葉にまた笑う。





何があったか今は訊かない。
相手が言う気になるまでは黙したままでただ待とう。
今は凍えるこの華奢な手を温めることが最優先だ。
仕事だ何だと理由を付けて、冷えた手指を強く握った。





リクエスト内容(意訳)
「春告げ玄冬を引き摺る救が打鶏肉のこくろに心を痛ませている前提の切な甘い銀救

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