腰に佩いた剣に手を掛け、蹴破り開いた一枚の扉。
割れて砕けた色硝子。そこから差し込む色付く陽光。
その光を背に佇む相手は作り物めいた笑みを浮かべていた。
─崩落する意志─
一歩また一歩と踏み出す度に、靴底と硝子片とが軋む。
ゆるやかにこちらへと顔を向け、滅びの申し子は微笑んだ。
眦を下げ、口角を上げ、それはそれは美しい顔で。
「俺の城へようこそ。救世主サマ?」
「貴様が『玄冬』か」
「そうらしいね」
蝋人形の白い肌。不揃いな長さの鴇色の髪。
笑みに細められた両の目は、血を固めたよな濃い緋色。
滅びの冬を内に秘めているとは思えぬような色を孕んで。
彼の者も腰に剣を佩き、それにゆったりと手を掛けている。
あの細腕で満足に扱えるものだろうかと過ぎった疑問を振り払う。
相手は『玄冬』だ。何が起きても、おかしくはない。
無言で思考を巡らず隙に、緋色の眸が俺を見る。
上から下へ、下から上へ。髪一筋から爪先までを。
一頻り眺め、ふぅんと漏らし、それからぽつりと落とした一言。
「……救世主って割には地味だね、アンタ」
「なっ」
「あ、ごめん。つい本音が」
悪びれもせずにけたけたと笑う。
激昂しかけたことも忘れて思わず両目を見開いた。
あまりにも人間臭い仕草と、垣間見えた幼さと。
言い聞かされ、伝え聞いてきた『玄冬』の姿とはまるで違う。
これはでまるで、普通の人間のようではないか。
こちらの動揺など露知らず、相手は再び能面の笑み。
先程までの人間味は、仮面の下へと飲み込まれた。
白く細い指が剣の柄を握り、微かな音と共に抜き放つ。
差し込む陽光をきらり弾いて、澄んだ刀身が露わになった。
「さぁ、救世主サマ。名残惜しいけどそろそろ始めようか」
言って剣を構えてみせる。
一対の緋に鋭い光。笑みを刻んだ唇は、一層酷薄さを増して。
剣を抜く手が迷いに震えた。
これは本当に『玄冬』なのかと。
今の今まで信じてきたことが些細なことで瓦解する。
躊躇っている余裕などないというのに。
そんな猶予は、残されていないのに。
「ぼさっとしてるならこっちから行くよ!」
鋭い一言に我に返り、咄嗟に抜いた剣が煌く。
重い一撃をどうにか受け止め、ぎちぎちと刀身が鳴くのを聞いた。
加減して勝てる相手ではない。
迷っていたら、負ける。
生まれた違和感に蓋をしようにも次から次へと疑念は尽きない。
迷いを捨てきれずに振るった剣は、ただただ空を切るばかりだった。
リクエスト内容(意訳)
「救世主な銀朱×玄冬な未来救」
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