言葉少なな彼の口から睦言が紡がれることはない。
代わりに大丈夫かと気遣って、短く問いを投げるだけ。
返す言葉は舌に乗らずに喉の奥で消えてしまうから。
背に縋る腕に力を込めて、皮膚を浅く爪で抉った。
─ここでキスして─
ぐったりと力の入らない身体が包まったシーツごと引き寄せられる。
重い瞼を開いた先に、こちらを覗き込む銀朱の顔。
情事の名残を宿した眸が月光を弾いてちらりと光った。
左の腕を枕代わりに、頭をそっと抱き込まれる。
子供相手にするかのような、そんな仕草がくすぐったい。
耳を押し当てた肌の内から相手の心音が微かに聞こえた。
いつもより、少しだけ早い。
平気か? と問う声がして、だいじょうぶ、と頷き返す。
相手の胸元に身を寄せたら、ぴくりと身体が強張って。
あれ、と思って顔を上げると、蒼い蒼い目が丸くなった。
「っわ、」
ガッと頭を掴まれて、そのままぐりんと首を捩じられる。
視界が転じるその直前に、目にした顔は真っ赤になって。
痛い痛いと訴えたら、頭を押さえる手が離れた。
薄く涙の浮いた目で、くるりと後ろを振り返る。
途端に泳ぐ蒼色と、バツの悪そうな表情と。
じっと見ていたら低い声で、なんだ、と問いを投げられた。
「……なんで銀朱が真っ赤なのさ」
「っ煩い!」
再び顔を押し遣られそうで、慌てて相手の腕を掴む。
そのままぴたりと頬に押し当て、くすくすと小さな笑みを零した。
「あのさ、銀朱」
「……なんだ」
頬から頭へ移る手が、湿気た髪をやんわりと梳く。
その感触に首を竦めて、あのね、と低く囁いた。
「腕枕してくれるのも嬉しいんだけどさ、」
言いながら僅かに口を閉ざし、ちらりと相手の顔を見る。
続きを促すかのように、彼は少しだけ首を傾げた。
「キスする余裕、欲しいなァ」
髪を梳く手がぎしりと強張り、見る間に顔が真っ赤になって。
わなわな震える唇からは、馬鹿を言うなと低い罵声。
手荒く髪を乱されつつも込み上げる笑いを吐き出した。
くしゃりと前髪を掻き上げられて、なに? と両目を丸くしたら。
額に触れた柔い感触と、すぐ背けられた赤い顔。
もう寝ろ、なんて言われても、意識はすっかり冴えてしまって。
くすぐったくて嬉しくて、顔を隠すみたいに身を寄せた。
リクエスト内容(意訳)
「初夜後甘々コメディ風」
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