朝だ起きろと告げられて、重い瞼を持ち上げた。
眩い朝日に目を細め、あたたかな毛布を頭から被る。
もう少しだけと駄々を捏ねたら、毛布を一気に引き剥がされた。










―眠気目覚まし―










不意の寒さにふるりと震え、手足を縮めて丸くなる。
さむい、と小さく零したら、ならば起きろと声がした。
寝ぼけ眼で見上げた先に、呆れた顔のタイチョーがいて。
剥いだ毛布を小脇に抱え、早くしろよと仁王立ち。

「……あと五時間」
「起きんか馬鹿者っ」

ほんの冗談のつもりだったのに、どうやら怒らせてしまったらしい。
枕を抱える腕を取られ、力任せに引っ張られた。
起きるものかと意地張って、全体重を背中の方へ。





と、不意に両腕が軽くなり、視界を染める薄い影。
止まったような時間の中、タイチョーの顔が落ちてきた。
酷く緩慢に見えているのに避けることはおろか瞬きすらも出来なくて。

折り重なるような体勢のまま一秒二秒と時が流れた。
がば、と跳ね起きる相手の顔が見る間に赤く染まってく。
手の甲を口元に押し当てて、狼狽えたように目を泳がせて。

すまんと一言叫ぶよに、吐き出し背を向け走り去る。
寝台の上に取り残されて、ようやくゆるりと思考が廻った。





のろのろと持ち上げた右の腕。
指先でなぞった唇に残る、仄かなぬくもりと柔い感触。
目の焦点が合わなくなるほど近く迫った澄んだ蒼。

互いに両目を見開いていた。
瞬くことを、忘れたように。

赤くなる顔を自覚しながら持て余す熱を枕に埋めた。
込み上げる感情を散らそうと、意味もなく足をばたつかせる。
ばくばく煩い心臓と、遠くなってしまった足音と。
寒さも眠気も吹き飛んで、ちくしょうと小さく毒づいた。





今夜一睡も出来なかったら、それは絶対にタイチョーのせいだ。










リクエスト内容(意訳)
「事故でキス」

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