夏も終わろうかという頃に無言で車を走らせた。
連れの瞼は閉ざされたまま、緋色の眸を覆っている。
車体が揺れると小さく身じろぎ、寝ぼけ眼で俺を見た。










―拉致誘拐の末―










どこへ行くの? と投げられた問いに、行けば解ると短く返す。
行き先も告げずに連れ出した相手は財布とケータイを持っただけ。
車を出すとは思わなかったのだろう。
乗れ、と助手席を示してみせると零れんばかりに目を見開いた。

「ちょっとホントにどこ行くつもり?」
「……良いところだ」
「うわ、胡散臭っ」

半歩下がって距離を置き、笑みを交えた胡乱な目。
嫌ならいい、と背を向けた途端、はっしと腕を掴まれる。
肩越しに見た相手の顔には僅かな焦りが浮かんでいた。

気付かれないよう小さく笑み、すぐさま繕う無表情。
じっとりと紅い目を睨みつつ、どうするんだと問い掛けた。

「行くのか、行かないのか」
「……行きます」

返された声にそうかと応え、細い髪を掻き混ぜた。
頬の膨れた拗ねた表情は歳より幼く目に映る。
嫌がり逃げる様を見て、両目が笑みに細まった。





着いたぞ、と肩を揺らすと小さな声が鼻から漏れる。
焦点の危うい緋色の眸に灯り広がる覚醒の気配。
ぱちぱちと目を瞬かせ、ふわ、とひとつ欠伸をした。

寝ぼけ眼を擦りつつ、視線は自然と窓の外。
その目が大きく見開かれ、額をガラスに押し付ける。
眼前に広がる光景に、言葉を忘れ呆然として。

「……ここ、どこ」
「先週行くはずだったキャンプ場だ」
「……は?」

テントの用意は出来なかったが、バンガローは借りてある。
言いながら深く息を吐き、車から降り伸びをした。





湿った土と緑の匂い、都市部に比べて冷涼な気温。
強張った体を動かし解して、助手席側にぐるりと回る。
未だ座ったままの相手に置いて行くぞと声を掛けた。

「なんで、こんな」
「行きたがっていただろう? キャンプ」
「ああ、いや、うん。そうだけどさ」

わたわたとシートベルトを外し、降り立つ相手に手を貸して。
信じられないとでも言いたげな顔がやや低い位置から俺を見た。

「明日、仕事じゃなかったっけ?」
「有休を取った」
「……、……」





不意に黙った相手の顔が見る間に赤く染まっていく。
あーだのうーだの言いながら、緋色の視線があちこちに。

「っな、なんだ!」

声を荒げて睨み付けるも、なんでもない、と首を振る。
困ったように眉尻を下げ、甘えた声で俺を呼んだ。

「今日の夕飯、カレーがいいな。甘いやつ」
「……材料は積んである。食いたいなら手伝え」
「はぁい」

くすくすと軽い笑い声、鼓膜を擽り釣られて笑む。
良いところだねと囁く声に、そうだろう、と言葉を返した。





滅多に料理などしない癖に「自分でやる」と言い張り包丁を握る。
ものの見事に指を切り、右へ左へ大騒ぎ。
缶詰のコーンを丸々一缶鍋にぶちこんだりもした。
うんざりするほどの黄色の粒と、食欲の失せる甘いカレーと。

どれもこれも今となっては良い思い出だ。
そう思うことにするとしよう。










リクエスト内容(意訳)
「現代パロでキャンプに行く銀救」

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