大きな両目を更に見開き、しげしげ眺める紅い視線。
襟を合わせ、帯を締め、仕上げに裾を捌いてやる。
出来たぞと告げ相手を見遣って、凛とした姿に息を呑んだ。
─藍に縞─
濃い藍色の浴衣から、すらりと伸びた白い腕。
合わせた襟からちらちら覗く、薄く汗ばんだ喉と首と。
両腕を広げ、その場で回る。くるりと一度、緩やかに二度。
鼻歌交じりに機嫌良く、こちらを見遣って首を傾げた。
「ね、似合う?」
「……あ、ああ……」
一拍遅れた頷きを気にした素振りは欠片もない。
ふふ、と小さな笑みを零して、俺の手を取りきゅっと握った。
ひんやりとした体温が手のひらをじわりと侵食する。
早く早くと急かされるままに下駄を突っ掛け外へ出た。
途端に押し寄せる湿気た空気と、遠くに聞こえる祭囃子。
道沿いに吊るされた色とりどりの提灯が温い風に揺れている。
「随分な人だな」
「ホント。混んでるねぇ」
ごった返した人混みの中、押し合いへし合い先へと進んだ。
露店を覗く余裕もなく、流れ流され列から逸れる。
ほっと息を吐いたのも束の間、隣に立つ相手の姿に目を剥いた。
「っおい!」
「え? なに?」
きょとん、と紅い両目を見開き、どうしたの? と首を傾げる。
その喉首から鎖骨にかけて、夜目にも鮮やかな白が覗いた。
人混みに揉まれ歩くうち、知らず乱れた浴衣の襟。
露わになった白い肌は目の毒以外の何物でもない。
「直せ、早く!」
「……直せって言われても」
これ、どうやって直せば良いの?
そう言いながら白い指先で乱れた襟をちょいと摘まむ。
ただでさえ開いたその襟元から一層白い肌が零れた。
「っだーもう! こっちへ来い!」
細い腕を取り脇へ寄り、乱れた襟を手早く合わせた。
されるがままの月白が、ねえ、と控えめに声を掛ける。
なるべく肌を見ないようにと伏せていた顔を僅かに上げた。
「……何だ」
「帯、一回解かなくていいの?」
このままじゃ直し辛いんじゃない?
まごまごと襟を整える様に自然と覚えた疑問なのだろう。
しかしそれは、今の俺にとってはとんでもない一言だった。
帯を解くだなんて、そんな。
「馬鹿を言うなっ!」
リクエスト内容(意訳)
「夏祭り、浴衣、挙動不審な銀朱」
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