幾度目かの吐精を迎え、荒い呼吸を繰り返す。
汗と涙で滲んだ視界に酷薄な蒼が映り込んだ。
貪られるような口付けを受け、下し切れない唾液が零れる。
切れ切れの呼吸を塞がれ奪われ、溢れる涙が頬を伝った。

首を鎖骨を這い回る手が胸を伝って腰骨に至る。
ずるりと半ば引き抜かれ再び腰を打ち付けられた。
跳ねる四肢と乱れる呼気と、甘い痺れが下腹に落ちる。
掠れた声で啼きながら相手の背に爪を立てた。










―千禍の泉―










忠告はしたぞ、と低く告げられ、背筋がざっと総毛立つ。
いつの間に距離を詰められたのか背中がトン、と壁にあたった。
逃げ場を求めてさまよう視線は顎を掴まれ上向かされる。

苛立ちの濃い蒼色の目。滲み出るのは情欲の色。

重ねるよりも食まれるような荒い口付けに奪われた。
呼吸も言葉も、何もかも。
酸素を欲して眩む思考、じわりと視界を歪める涙。
胸を押す手は取られ盗まれ背にした壁に縫い止められた。

息が苦しい、膝が笑う。
身体を支えることが出来ずに自由の利く手で相手に縋った。
逃げ惑う舌が絡め取られて、柔らかく歯を立てられる。
痛みを痛みと感知出来ず、代わりに甘い痺れが落ちた。





寝台の上へ場所を移しても行為の荒さは変わらない。
服の留め具を外した指が布地の下を這い回る。

胸の突起を弾かれ潰され、走る感覚に甲高く啼いた。
脇腹をなぞり、下腹部へ落ちる。
布越しに攻められる中心は熱く、もどかしい行為に先を求めて。

「タイ、チョ……あ……」

声を殺そうと口を覆う手は、纏めて縛られ頭の上に。
口付けの終わりに下唇を噛まれ、ちり、と小さな痛みが走った。
耳元に落とされる囁きと、止まぬ愛撫に身を震わせて。
縋るもののない両の手でシーツの端を辛うじて掴んだ。

「ぎん、しゅ……ぎん……っ……!」

下肢から衣服を剥ぎ取られ、中心を直に攻め立てられる。
零れ始めた精を助けに、果てへと追われ高められて。
熱が弾ける寸前に、不意に愛撫の手が止まる。

戸惑い仰いだ蒼い眸は、どこまでも底の見えない色で。
薄っすらと笑んだ唇に、ぞくりと背筋が粟立った。





「っ、ん……!」

口腔に押し込められた指が、舌を荒く撫で回す。
精と唾液が混ざり合い、口の端から伝って落ちた。
充分に濡れた指を引き抜き、その手が後孔へ回される。
馴染ませるように触れられて、ひくりと喉が引き攣った。

「あ、やッ……ン……ぅ」

つぷ、と指が体内に埋まる。
浅い箇所にばかり触れられ、知らず知らず腰が揺らいだ。
ゆるゆると蠢き増やされる指。
時に深く探られて、その度にビクリと身が跳ねる。

腕の拘束は既に解かれ、力の入らない手でシーツを掴む。
そうしている間にも掻き回されて、涙混じりの声が漏れた。
欲するものとは程遠い刺激に、腰が、下肢が、ゆらめいて。
物欲しそうに疼く様が、羞恥と熱とを上げていく。

引き抜かれる指、接触の喪失。
束の間の空白に息を継ぎ、宛がわれた熱に息を飲む。
指などではない、欲していた、それ。
歓喜に打ち震える自身を感じながら、押し入る熱を甘受した。




















「っていう夢を見てさァ」

一部始終を話し終え、やれやれと俺は息を吐く。
赤くなったり青くなったり、蒼い両目を白黒させて。
動くことを忘れたペンの先から、ぽったりとインクが零れて落ちた。

酷薄な笑みを浮かべた相手から、やっとのことで解放される。
白くなる視界と弛緩する四肢。
腹の中に放たれた熱が溢れ流れるのをぼんやり感じて。
それと同時に目が覚めた。

全身にじっとりと汗を纏って、窓を見遣るとまだ真っ暗。
遥か遠くの空が白んで、ほんの微かな朝の気配。
起き出すにはまだ早過ぎるのに二度寝しようにも寝付けなかった。
おかげで寝不足だと零し、大変だったんだからね、と彼の方へと目を向ける。





「って、あれ。タイチョー?」

なにしてるの、と背中に問う。
いつの間に立ち上がったのか、扉へ歩み寄り鍵を掛けていた。
くるりとこちらへ向き直り、一歩また一歩と距離を詰める。

眉間に寄った皺、への字に曲げられた口元。
蒼い蒼い両の目には、夢で見たものと同じ色。
じりじりと灯る、情欲の。

「……あ、の」

詰められる分だけ後退するも、背中が壁にぶつかった。
はっと息を飲み込んで、逃げ道はないかと目を走らせたけど。
顔の脇に手を突かれ、顎を捉われ上向かされる。

「少し、黙れ」

言うが早いか口付けられて、深さと荒さに飲み込まれた。
じわりと視界が滲んで揺らぎ、思考は白く霞に沈む。
唾液がツイと糸引く様に、夢の続きを見た気がした。










リクエスト内容(意訳)
「鬼畜攻めな銀朱の夢を見た救世主。
シリアスに見せ掛けた銀→←救コメディ」

一覧 | 目録 |