ことりと肩に掛かる重みに心の臓が大きく跳ねた。
視界の隅には朱鷺色の髪、伏せられた瞼、縁取る睫。
この状況をどう打破しようかと必死に考える銀朱を余所に、すやすやと小さな寝息が零された。
―向けられる好意、孕む差異―
肩を借りて眠る相手の寝顔をそっと覗き見る。
前触れなしに部屋を訪れた時から眠そうだとは思っていたのだ。
とろりと半ば伏せられた目と、徐々に回らなくなる呂律。
救世主の持ち込んだ温かな茶を啜りながら、危うげな様子に気が気でなかった。
遂にはこっくりと舟を漕ぎ始め、部屋に戻れと言おうとしたのだが。
その矢先、相手は肩を枕に夢の中、だ。
「……おい」
声を掛けたが返事はない。
ごくごく小さな抑えた声では夢の底に沈む相手に届かないらしい。
起こさなければと伸ばした腕で救世主の肩をやんわりと掴む。
と、
「……ん……」
鼻に掛かったような声が漏れた。
弓形の眉を僅かに寄せて、薄く開いた唇が震える。
何事か紡ごうとするその動きに、銀朱は耳を欹てた。
「……ぎん……、……」
途端に頬に朱を走らせ、肩を掴んでいた手が落ちる。
ぎくしゃくしながら手を引き戻し、どうしたものかとまた悩むのだ。
一度離れた腕を持ち上げ揺り起こそうかと思いはしても、何故だか触れることが躊躇われる。
触れること、よりも、起こすこと、かもしれなかった。
名を、呼ばれたのだろうか。
呼ばれたと考えて、良いのだろうか。
ふつふつと沸く想いを抱え、深い深い溜息をひとつ。
肩にもたれて眠る相手に恨みがましい視線を投げた。
そんな銀朱のことなど知らず、未だ救世主は夢の中。
普段よりも幼い顔で、すやすやと寝息を零すだけ。
そして銀朱は知る由もない。
先ほど紡がれた名の一片が、自分を呼ぶものではないことなど!
リクエスト内容(意訳)
「未来ちゃんを好きになっちゃった銀朱さんと、
幼馴染に似ているから懐いているだけな未来ちゃん」
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