開いた視界は仄かに明るく、朝の訪れを朧に悟った。
視線だけで隣を窺い、ほう、と小さく息を吐く。
眼前の色、桜の髪。
柔な感触を脳裏に描き、その春色にそっと触れた。
―やわらかな朝―
四方に跳ねた髪が揺れる。朝陽をきらきらと反射しながら。
いつになく癖のついたそれに、指を絡ませ軽く梳いた。
するりと滑りすり抜ける髪に、戯れのように何度も触れる。
と、
「……なに……?」
「ああ、いや」
薄く開かれた赤い目が、ぼんやりとこちらを映し捉えた。
起きたのか、と誤魔化しつつ、掬った春色から手を離す。
数多の髪に紛れるそれは、さら、と微かな音をたてた。
「癖が、ついていたからな」
「くせ?」
「ああ、少しだけ」
「……ふうん」
ぱち、と音がしそうなほどに長い睫が二三度瞬く。
寝転んだままで首を傾げ、未だ眠そうな目で俺を見た。
猫のようだと、ぼんやり思う。
すい、と伸びる細い腕が俺の頭に軽く触れた。
触れたかと思うとふわりと離れ、再び柔らかく触れてくる。
撫ぜられるようなその手つきに、怪訝な声で何だと問うた。
赤い目が、瞬く。
くすりと零れた吐息の笑みと、細められた赤色と。
「跳ねてる」
思いのほか甘く紡がれた言葉に、腹の底がざわめいた。
跳ねた髪に触れては離れる花白の白く華奢な手指。
くすくすと肩を震わせながら、飽きもせずに繰り返す。
「っわ……!」
その手を掴み軽く引いて、小柄な体を抱き寄せた。
腕に掛かる僅かな重みと、身じろぐ仕草に淡く笑む。
さらりふわりと流れる髪に、やんわりと己が指を絡めた。
いやに大人しく、されるがままの子供の顔を窺うように覗き込む。
珍しいと思ったのだ。
平手の一二発は覚悟していたというのに。
「……花白?」
「なんだよ」
「……、……顔が赤い」
「誰のせいだよ!」
言葉と共に振り上げられた手と、上気し染まった朱の頬と。
額に受けた平手打ちは、声音の割に弱いものだった。
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