へらへらと笑う顔が嫌いだ。
貼り付けただけの薄っぺらい表情も。
苛立ちのままにそう吐き捨てて温い紅茶を一気に煽った。
やわらかな甘味を持つはずなのに、それは喉と舌を焼く。
顔を顰めて溜息を吐いたら、おかわりを注ぐ小さな手。
仕方ないなと苦笑する顔は、歳よりずっと大人びて見えた。
―笑った顔も好きだけど―
ちびちびと紅茶に口を付け、ごめんねと小さく謝罪する。
自分よりずっと小さな子供に愚痴ばかり零してしまったから。
けれど彼は首を振り、気にしなくていいと微笑んだ。
気持ちは確かに分かるけど。そう言いながら僕を見る。
真っ直ぐな視線に晒されて、なんだか少し居心地が悪かった。
「あいつだってちゃんと笑うだろう?」
「それは、そうだろうけどさ」
あまり目にする機会がないからと言い訳じみた言葉を返す。
すると彼は小首を傾げ、不思議そうに「そうか?」と言った。
「あいつの笑顔、きれいだぞ?」
やや上向いた藍色の目が記憶の道筋を辿っていく。
つらつらと紡がれる数多の事柄にただただ驚き目を瞠った。
知らなかったと呟くと、まだあるぞ、と指を折る。
泣きそうなのを堪える顔は痛々しくて胸が詰まる。
むっと唇を尖らせる様は子供みたいで可愛らしい。
もちろん笑顔は綺麗だけれど照れた微笑みはまた別で。
綺麗な顔をしているからこそ、驚いたり慌てた時の顔も可愛いんだ。
猫みたいに笑っている時も、もちろんおれは好きだけど。
最初こそ興味を引かれたし、耳を傾けていたけれど。
胸焼けにも似た感覚を覚えて、くらりと眩暈に襲われる。
と、不意にくろとは口を閉じ、にやりと目元を歪ませた。
その表情にどきりとし、ほんの少しだけ後ずさる。
玄冬が意地悪く笑う時の顔と、とてもとてもよく似ていたから。
思い出すと顔が熱くなるような、そんな記憶も蘇って。
「あ、の……そっ、そろそろ僕行くね!」
「そうか?」
心なしか残念そうに、けれど引き留めることはしない。
これ幸いと席を立ち、お茶ありがとうと言い残す。
開いた扉の向こう側、出会い頭でぶつかる人影。
よろけた所を抱き留められて、仰いだ先には救世主。
銀朱と二人で目を丸くしながら、大丈夫かと問う声がした。
「あれ。こぐま君と一緒だったの?」
「そう、だけど」
「えー二人で何の話してたの? おにーちゃんに教えてよ」
子供みたいに小首を傾げて、にっこり笑って尋ねるけれど。
まさか素直に言えるはずもなく、なんでもない! と突き放した。
相手の腕を振り払い、逃げるみたいに小走りで。
変なの、と呟く声がして、扉の閉じる音を聞く。
そこにいるのは歳不相応に大人びた思考を持つ子供。
うっかり聞かされた惚気話で火照った頬が熱かった。
巻き込まれるであろう幼馴染を少しだけ哀れに思いながらも助けに行く気は更々ない。
馬に蹴られても死なないだろうから、あいつは放っておくとしよう。
リクエスト内容(意訳)
「こくろから救に対する惚気話を聞かされる花白」
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