遊び疲れて部屋に戻ると、そこにはなぜか先客がいた。
軽く引かれた二脚の椅子と、読みかけの本が置かれたテーブル。
計十二本の足を縫うようにして床に転がる研究者。
どうやら眠っているらしく、耳を澄ませると寝息が聞こえた。
―ぬくもりいとし―
無言のままで顔を見合わせ、揃って再び研究者を見る。
どうやって潜り込んだのか、身体はすっぽりテーブルの下。
わざわざ椅子を引き寄せたのかと思うような体勢で。
どうしようかと思案の最中、不意にはなしろが隣を離れた。
叩き起こすのかと思ったら、そっと椅子を持ち上げる。
離れた場所に置き直し、もう一脚にも手を伸ばして。
はなしろ、と小さく呼ぶと、しぃ、と指で制される。
やれやれと軽い溜息ひとつ、椅子を受け取り窓辺に置いた。
「頭ぶつけたらかわいそうだもんね」
「そうだな」
ひそひそ声で言うはなしろに、こっくり頷き微笑み返す。
大きなテーブルを二人で持ち上げ、苦労しながら場所を移した。
寝台の上から毛布を下ろし、寝こける研究者に掛けてやる。
その端っこに寝転びながら、くすくすと笑うはなしろの声。
研究者の寝息につられたのだろう、赤い眸をとろんとさせて。
もそもそと毛布に潜り込み、ふあ、と小さく欠伸をひとつ。
肩から落ちた毛布を直すと袖をきゅう、と握られた。
どうしたのかと視線で問えば、くろとも、と眠そうな声が。
頷くまでは離れそうにない小さなその手をやんわり握る。
仕方がなしと苦笑して、その場にころんと寝転んだ。
「疲れたか?」
「……くろとは?」
「少し」
「じゃあ、ぼくも少しだけ」
半分閉じた赤い目が満足そうににっこり笑う。
どちらからとなく「おやすみ」を言って、二人揃って目を閉じた。
やがて聞こえた小さな寝息にふわりと零れた笑みの花。
とろりと溢れる眠気のままに、意識を手放し夢の中。
ゆるり開かれた紫の目、ふらりさまよう寝呆けた視線。
傍らに眠る子供らを見て、丸く瞠られ笑みに細める。
毛布の外にいる年嵩の子に、自らの上着を被せて掛けて。
目覚めぬ子らに笑み深く、再び瞼で両目を覆った。
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