ずっと足音がついてくる。コツコツ、コツコツ、同じリズムで。
足を止めれば同じように止まるし、歩調を早めればそっくり真似て。
痺れを切らし振り返った先で、ふたつの赤い目がにこりと笑った。
―宣戦布告―
足早に、けれど軽やかに、歩み寄られて距離が縮まる。
笑みに細める赤い目は、少し見上げる位置にあった。
「どこ行くの?」
「……どこだっていいだろ」
ぶっきらぼうに言葉を返せば、えー、と不満げな声を出す。
頬を膨らせ、唇を尖らせ、僕の袖を軽く引いた。
背丈は僕より大きいくせに、こういう仕草はまだまだ子供だ。
見下ろされていた悔しさが、みるみるうちに萎んでく。
ずっと昔、まだまだ小さな子供だった頃のことを脳裏に描いてくすりと笑った。
どこまでも真っ直ぐで、元気の塊みたいだった頃のことを。
もっとも、今でも大して変わりはないのかもしれない。
しゅん、と俯く相手の頭を平手で二三度軽く叩く。
指先に受ける滑らかな感触、よく似た色の髪が揺れた。
「玄冬のとこ行くんだけど、おまえも来る?」
拗ねた色の目がきょとんと開かれ、ぱしぱしと瞬きを繰り返す。
考えるように小さく唸り、ふ、と顔を上げて笑った。
「……行く……!」
言うが早いか腕を伸ばして、僕の体を抱き寄せる。
のっしりと背に被さって、遠慮なしに体重をかけてきた。
重い離せともがいたけれど、けらけら笑って聞きもしない。
「ぼく負けないから!」
「……は?」
何の脈絡もなく告げられた言葉に、素っ頓狂な声が出た。
負けないって何にだよ。
首を捻って振り返り、問いを投げてもはぐらかされる。
なんでもないよとくすくす笑って、背中にずしりと掛かる重み。
抱き締められる腕の強さだとか、見上げなければならない背丈だとか。
気にしないようにはしていたけれど、やっぱり少しだけ悔しかった。
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